「落としてたまるか。」の衝撃
「落としてたまるか。」—この挑戦的なキャッチコピーと共に、2022年6月に卓球界に登場したのが、ニッタクの裏ソフトラバー「ハモンドZ2」です。21年以上の歴史を誇る伝説的な「ハモンド」シリーズの名を受け継ぎ、実に13年ぶりに発表されたこの新作は、現代卓球の高速ラリーに対応すべく開発されたトップ仕様のラバーです。
発売から数年が経過した今もなお、その圧倒的なスピード性能と、キャッチコピーが象徴する「落ちない」安定感で多くのプレイヤーを魅了し続けています。本記事では、ハモンドZ2の技術的特徴から性能、ライバル製品との比較、そしてユーザーレビューまでを網羅的に分析し、その真価に迫ります。
開発背景:13年の時を経て蘇る伝説
「ハモンド」シリーズは、2001年の初代モデル発売以来、ニッタクの日本製裏ソフトラバーの代名詞として多くのプレイヤーに愛されてきました。しかし、プラスチックボールへの移行やプレースタイルの高速化といった環境変化の中で、新たなフラッグシップモデルの登場が待望されていました。
ニッタクが社運をかけて開発し、『ハモンドプロβ』以来、実に13年ぶりの新作としてリリースされたのが『ハモンドZ2』です。このラバーは、単なる後継モデルではなく、現代卓球で勝利するためにゼロから設計された、全く新しいモンスターラバーと言えます。
開発チームは、ベストセラー「ファスターク」シリーズで培ったノウハウを活かしつつも、それを超える性能を目指しました。その結果、スピードとスピンの両方でニッタクのテンション系ラバーの中で最高クラスの性能を誇る製品が誕生したのです。
ハモンドZ2を支える3つのコア技術
ハモンドZ2の驚異的な性能は、ニッタクが誇る複数の独自技術の融合によって実現されています。ここでは、その核心となる3つの技術を解説します。
バルクヘッドスポンジ:反発力を司る「赤」の心臓部
ハモンドZ2を象徴するのが、鮮やかな「赤」をまとったバルクヘッドスポンジです。このスポンジは、内部の隔壁構造を強化することで、打球時のエネルギーロスを最小限に抑制し、ボールに伝わる反発力を最大化します。これにより、プレイヤーのスイングエネルギーを無駄なくボールに伝え、驚異的な球速を生み出すことが可能になります。
ナチュラルリッチシート:「落ちない」安心感を生むグリップ力
トップシートには、天然ゴムの比率を極限まで高め、ゴムシートの密度を大きくした「ナチュラルリッチシート」が採用されています。このシートの最大の特徴は、その卓越したグリップ力です。ボールを薄く捉えた場合でもしっかりと掴み、滑らせることなく安定した弧線を描きます。これにより、相手の強烈な回転に負けないカウンタードライブや、台から下がってからでも深く突き刺さるようなドライブが可能となり、「落としてたまるか。」のキャッチコピーを体現しています。
ZC(ゼットチャージ):新時代のスピードを拓くエンジン
バルクヘッドスポンジに組み合わされているのが、新技術「ZC(ゼットチャージ)」です。これはスポンジの弾性を飛躍的に高める技術で、ボールがラバーに食い込んだ瞬間に爆発的なエネルギーを放出し、これまでのラバーとは一線を画すスピード性能を実現します。この技術により、ハモンドZ2はスピード系テンションラバーの中でも特に直線的で鋭い弾道を描きます。
性能徹底解剖:スピードと安定性の両立
これらの先進技術が融合したハモンドZ2は、どのような性能を発揮するのでしょうか。実際の打球感やプレースタイルへの影響を分析します。
圧倒的なスピードと直線的な弾道
ハモンドZ2の最も際立った特徴は、その圧倒的なスピード性能です。多くのレビューで「ディグニクスを上回る球速が出せる」と評されるほど、その弾道は速く、直線的です。特に前陣でのドライブの応酬において、そのスピードは絶大な武器となります。コンパクトなスイングでも相手コートに深く突き刺さるボールを放つことができ、ラリーの主導権を握りやすくなります。
スピードドライブについては回転量も少なくはなく、前陣対前陣のドライブは申し分ないかと思います。正確には、より直線的なので速く感じやすい、という感じですね。
グリップ力と回転性能のバランス
スピード重視の設計でありながら、スピン性能も高いレベルで確保されています。ニッタクの公式性能値では、スピード「16.00」に対し、スピンは「13.00」とされており、テンションラバーとしては非常に高い数値を誇ります。ナチュラルリッチシートの強いグリップ力により、ドライブ時にはボールをしっかり掴んで回転をかけることができます。ただし、回転だけで飛ばすようなループドライブは、ラバーの強い反発力のため技術を要するという意見もあります。
硬質な打球感とプレースタイル
スポンジ硬度は日本基準で「40.0」、ドイツ基準に換算すると約50度と、かなり硬めの設定です。そのため、打球感は硬質で、しっかりとしたインパクトができないと性能を最大限に引き出すのは難しいかもしれません。パワーのある選手や、自らのスイングでボールを叩きにいくタイプの選手に特に適しています。一方で、その硬さゆえに相手のボールの威力に押し負けにくく、ブロックやカウンターが非常に安定するというメリットもあります。
ライバルラバーとの徹底比較
ハモンドZ2は、市場に存在する他のトップラバーと比較してどのような位置づけにあるのでしょうか。ここでは、主要なライバル製品との性能を比較分析します。
性能レーダーチャート比較
ハモンドZ2と、その比較対象としてよく挙げられる「ディグニクス05」「テナジー05」、そしてニッタクの人気ラバー「ファスタークG-1」の性能をレーダーチャートで視覚化しました。各数値は、公式データや複数のレビューサイトの情報を基に相対的に評価したものです。
チャートからわかるように、ハモンドZ2はスピードで他を圧倒しつつ、スピン性能も高いレベルを維持しています。硬度も高く、非常に攻撃的な特性を持つラバーであることが見て取れます。
vs ディグニクス05:スピードか、万能性か
ハモンドZ2は、多くのレビューでバタフライの「ディグニクス05」と比較されます。両者はドイツ硬度換算で50度前後という硬いスポンジを持つ点で共通していますが、その特性は異なります。
- ハモンドZ2: より直線的で、純粋な球速ではディグニクスを凌駕することがあります。前陣でのスピードドライブやカウンターで威力を発揮します。
- ディグニクス05: より弧線を描きやすく、回転性能と安定感に優れます。打点を落とした状態からでも回転をかけて持ち上げやすく、プレー領域が広いのが特徴です。
どちらを選ぶかは、前陣で速攻を仕掛けるスタイルか、中陣からのラリーも視野に入れたオールラウンドなスタイルかによって決まると言えるでしょう。
vs テナジー05:新旧日本製モンスター対決
長年王者に君臨してきた「テナジー05」との比較では、スピード性能でハモンドZ2に軍配が上がります。あるレビューではと評価されています。また、ハモンドZ2はテナジー05よりもシートの耐久性が高く、寿命が長いという声もあり、コストパフォーマンスの面でも優位性を持つ可能性があります。
vs ファスタークG-1:ニッタク内での世代交代
ニッタクのベストセラー「ファスタークG-1」と比較すると、ハモンドZ2は明確な上位モデルとして位置づけられています。公式性能値でもスピード・スピン共にZ2が上回っており、より高いレベルの威力を求めるプレイヤー向けのラバーです。価格は同等ですが、性能を追求するならばハモンドZ2が選択肢となります。
ラインナップと選び方
ハモンドZ2シリーズには、プレースタイルに合わせて選べる2つのモデルが存在します。
ハモンドZ2:パワーとスピードを求める選手へ
本記事で主に解説してきた標準モデルです。スポンジ硬度は40.0(日本基準)で、非常に硬質な打球感が特徴です。そのポテンシャルを最大限に引き出すには相応のパワーと技術が求められますが、使いこなせば他の追随を許さないスピードボールを放つことができます。前〜中陣で攻撃的な両ハンドドライブを武器にする上級者に特におすすめです。
ハモンドZ2 特注:食い込みと安定性を重視する選手へ
「ハモンドZ2 特注(SPECIAL VERSION)」は、スポンジ硬度を35.0(日本基準)に抑えた、よりソフトなバージョンです。スポンジが柔らかくなったことでボールの食い込みが良くなり、安定性が向上しています。標準モデルの硬さに馴染めなかったプレイヤーや、よりコントロールを重視しつつもZ2の持つスピード感を味わいたいプレイヤーに適しています。特にバックハンドでの使用や、中級レベルの選手のフォアハンド用としても高い評価を得ています。
価格とコストパフォーマンス
ハモンドZ2のメーカー希望小売価格は7,480円(税込)です。これはファスタークG-1と同価格帯であり、ディグニクスシリーズ(1万円前後)よりは手頃な価格設定となっています。
実売価格は、オンラインショップによって異なりますが、おおむね5,000円台前半から6,000円台で販売されていることが多いようです。卓球ナビなどの専門店では4,000円台後半で提供されることもあります。テナジーやディグニクスといったハイエンドラバーと比較して初期投資を抑えつつ、トップクラスの性能を求めるプレイヤーにとって、ハモンドZ2は非常に魅力的な選択肢と言えるでしょう。
結論:ハモンドZ2は誰のためのラバーか?
ニッタク ハモンドZ2は、単なる過去の名作の復刻ではありません。それは、現代卓球の高速化に対応し、勝利を掴むために生まれた「スピード特化型」のモンスターラバーです。
その性能を最大限に活かせるのは、以下のようなプレイヤーでしょう。
- 前陣での速攻を主体とする攻撃型プレイヤー
- 相手のドライブに対して、威力で上回るカウンターを武器にしたい選手
- 硬い打球感を好み、自らのパワーでボールを打ち抜きたい上級者
- テナジーやディグニクスに匹敵する性能を、よりコストを抑えて手に入れたい選手
一方で、その硬さと反発力の強さから、回転を主体としたループドライブや、繊細な台上技術を多用するプレイヤーには、慣れが必要かもしれません。しかし、「落としてたまるか。」という言葉が示す通り、一度その性能を信頼し、思い切り振り抜いた時の安心感とボールの威力は格別です。ハモンドZ2は、あなたの卓球を、より攻撃的で、よりスリリングな次元へと引き上げてくれる可能性を秘めた一枚と言えるでしょう。




