バタフライが投じる卓球界への一石
2025年秋、卓球用品メーカーの株式会社タマス(ブランド名:バタフライ)は、卓球界に衝撃を与える新作ラバー『ザイア03(ZYRE 03)』を発表しました。数々の革新的な技術が投入されたこのラバーの中でも、特に注目を集めているのがその心臓部である「スポンジ」です。従来のラバーの常識を根底から覆すほどの厚みを持つこのスポンジは、一体どのような性能をもたらすのでしょうか。本記事では、ザイア03の核心であるスポンジに焦点を当て、その技術的背景とパフォーマンスへの影響を深く掘り下げていきます。
ザイア03の核心:スポンジ厚のパラダイムシフト
ザイア03を語る上で最も重要なキーワードは、間違いなくその「スポンジの厚さ」です。これは単なるマイナーチェンジではなく、ラバー設計における思想の転換、すなわちパラダイムシフトと言えるほどの大きな変化です。
従来の常識を打ち破る2.7mmの衝撃
これまでバタフライのラバーにおいて、最も厚いスポンジは「特厚」と呼ばれる2.1mmでした。しかし、ザイア03では2.5mmおよび2.7mmという、前代未聞の厚さのスポンジが採用されています。この数値がどれほど異例であるかは、従来の厚さのラインナップと比較することで一目瞭然です。
従来の「中(1.7mm)」から「特厚(2.1mm)」への厚さの増加分は0.4mmでした。それに対し、今回の「特厚」からザイア03の最大厚2.7mmへの増加分は0.6mmにも及びます。これは、ボールの挙動に絶大な影響を与える、極めて大きな変化です。
この「超極厚」スポンジは、ボールがラバーに深く食い込むための物理的な空間を大幅に拡大させ、これまでにないレベルのエネルギー伝達と回転生成を可能にします。
なぜ「超極厚」が可能になったのか?
卓球のルールでは、ラバー(シートとスポンジの合計)の厚さは4.0mm以内と定められています。では、なぜザイア03はこれほどの極厚スポンジを搭載できたのでしょうか。その答えは、同時に開発された新技術「リコシート」にあります。
「リコシート」は、ツブを低く、かつ高密度に配置した新しい構造のトップシートです。このシートを極限まで薄く設計することで、ルールの上限内でスポンジの厚さを最大化することに成功しました。 実際、バタフライの公式情報によると、スポンジ厚2.7mmのザイア03の総厚は、従来のスポンジ厚2.1mm(特厚)のラバーと同等であるとされています。
つまり、ザイア03は「薄いシート+極厚スポンジ」という、従来とは逆のアプローチで設計された革新的な製品なのです。
超極厚スポンジがもたらす性能への影響
このユニークな構造は、ザイア03の性能にどのような影響を与えるのでしょうか。回転、軌道、そして打球感という3つの側面から分析します。
回転と軌道:「うねる高弧線」の実現
ザイア03の最大の特長は、「回転量の多いドライブが高弧線で深く刺さる」点にあります。 これは、超極厚スポンジがもたらす強烈な食い込みによって実現されます。ボールがスポンジの奥深くまで沈み込むことで、接触時間が長くなり、ボールを「掴む」感覚が向上。その結果、莫大な回転エネルギーをボールに伝えることが可能になります。
さらに、硬めの「スプリング スポンジX」との組み合わせにより、ボールはただ山なりになるだけでなく、相手コートに向かって伸びていく強い推進力を持ちます。一部のレビューでは、その軌道が「うねるような軌道」と表現されており、相手にとっては非常に予測しづらい、脅威的なボールとなることが示唆されています。
打球感と安定性:硬度44度と厚みの両立
ザイア03のスポンジ硬度は44度と、比較的に硬めの設定です。通常、硬いスポンジはボールの食い込みが悪くなり、コントロールが難しくなる傾向があります。しかし、ザイア03では超極厚スポンジがその常識を覆します。
スポンジ自体が持つ厚みによって、硬くてもボールをしっかりと変形させ、ラバー全体でボールを包み込むことが可能です。これにより、「弾持ちが良い」という感覚が生まれ、強打時でもボールがラケットから滑り落ちることなく、安定したショットを放つことができます。
公式の性能指標を見ると、スピン性能が100と最大値に設定されている一方で、スピードは88とやや抑えめです。これは、ザイア03が単なるスピードグルー時代の再来ではなく、回転と弧線の高さを重視した現代卓球向けのラバーであることを物語っています。
プレイヤーが知るべき注意点と展望
これほど革新的なラバーであるからこそ、使用する上で考慮すべき点も存在します。重量、個体差、そして価格です。
重量と個体差の問題
スポンジが厚くなれば、当然ラバー全体の重量も増加する傾向にあります。トップシートが薄いとはいえ、総重量は従来のラバーよりも重くなる可能性が高いでしょう。 プレイヤーは、ラケット全体のバランスを再考する必要があるかもしれません。
また、これほど厚いスポンジは製造上のばらつきが生じやすいという指摘もあります。スポンジは発泡ゴムであるため、厚みが増すほど硬度や重量の個体差が大きくなる可能性があります。信頼できる店舗で、硬度や重量を指定して購入することも一つの選択肢となるかもしれません。
価格とターゲットプレイヤー
ザイア03は、その革新的な技術を反映してか、店頭価格が税込14,300円と非常に高価です。 これは、誰もが気軽に試せる価格帯とは言えません。
これらの特性を総合すると、ザイア03は、自ら強烈な回転を生み出すスイングができる上級者や、これまでにない異質なボールで相手を翻弄したいプレイヤーにとって、強力な武器となり得るでしょう。その性能を最大限に引き出すには、相応の技術とフィジカルが求められるラバーと言えます。
まとめ:卓球ラバーの新時代を切り拓くザイア03
バタフライの『ザイア03』は、その「超極厚スポンジ」によって、卓球ラバーの設計思想に新たな地平を切り拓きました。薄い「リコシート」との組み合わせでルール内に収められたこのラバーは、圧倒的な回転量と、相手を惑わす高くて深いうねるような軌道を生み出します。
重量や価格といった課題はあるものの、その唯一無二の性能は、現代卓球の戦術に新たな一石を投じる可能性を秘めています。ザイア03は、単なる新製品ではなく、卓球というスポーツの未来を垣間見せる、まさに革命的なラバーと言えるでしょう。




