卓球の世界において、用具の進化はプレースタイルそのものを変革してきました。特にラバーは、選手の個性を最大限に引き出すための重要な要素です。その中でも、バタフライの「タキネス」シリーズは、長年にわたり守備型プレイヤー、特にカット主戦型(カットマン)から絶大な信頼を得てきました。本記事では、その正統進化モデルである「タキネス チョップ II」について、性能、特徴、ユーザーレビュー、そして初代モデルとの比較を交えながら、その魅力を徹底的に解剖します。
『タキネス チョップ』のスピン性能を強化したラバーです。高弾性スポンジによって攻撃力も向上。カットやツッツキに鋭い「切れ」を実感できるラバーです。
タキネス チョップ IIとは? – 伝統を受け継ぐ進化形ラバー
「タキネス チョップ II」は、2006年10月1日に発売された粘着性裏ソフトラバーです。その名の通り、カットマンに絶大な人気を誇った「タキネス チョップ」の後継モデルとして開発されました。開発の主眼は、初代の持ち味であった強烈な回転性能をさらに強化し、同時に高弾性スポンジを採用することで攻撃性能を向上させる点にありました。
これにより、従来の守備一辺倒ではなく、鋭いカットで相手を崩し、チャンスボールは確実に攻撃に転じる「現代カットマン」のプレースタイルに対応することを目指したラバーと言えます。粘着性のトップシートがボールをしっかりと掴み、硬めのスポンジがそのエネルギーを回転力に変換します。
性能徹底分析:データで見る実力
ラバーの性能を客観的に把握するために、バタフライが公開している公式データを比較してみましょう。ここでは、初代「タキネス チョップ」と「タキネス チョップ II」の性能値を比較します。これにより、IIがどのような進化を遂げたのかが明確になります。
いくつかの重要な点が読み取れます。
- スピン (Spin): 初代の「16」に対し、IIは「30」と大幅に向上しています。これは、より回転量の多い、いわゆる「切れた」カットやツッツキが可能になったことを示します。
- 弧線 (Arc): 弧線の描きやすさを示すこの数値も、初代の「27」から「41」へと大きく伸びています。これにより、より安定的で深いカットボールを送りやすくなります。
- 硬度 (Hardness): 初代の「32°」というソフトなスポンジに対し、IIは「41°」という硬いスポンジを採用しています。この硬さが、インパクト時にボールを強く弾き、スピン性能と攻撃力の向上に寄与しています。
- スピード (Speed): 両者ともに「16」とされていますが、これはあくまで指標です。多くのユーザーレビューでは、硬いスポンジの影響でIIの方がインパクトが強い場合にスピードが出やすいと評価されています。
これらのデータは、「タキネス チョップ II」が初代のコンセプトを維持しつつ、よりスピン性能と威力を重視したチューニングが施されていることを明確に示しています。
使用感レビューから探る長所と短所
公式データだけでは分からない実際の打球感や使い勝手について、多くのプレイヤーから寄せられたレビューを基に長所と短所を分析します。
長所:比類なきカット性能とスピン
使用者から最も高く評価されているのは、やはりその圧倒的なカット性能です。粘着性のトップシートが相手の強烈なドライブをしっかりと掴み、硬いスポンジがそれを強烈な下回転に変換して返球します。多くのレビューで「ツッツキが驚くほど切れる」「カットがネットに突き刺さる」といった声が見られます。あるユーザーは「回転重視、守備の方におすすめします!!」と絶賛しており、守備における信頼性の高さがうかがえます。
また、コントロール性能も特筆すべき点です。スピードが控えめであるため、相手の強打に対してもオーバーミスしにくく、安定してブロックやカットで粘ることが可能です。「どんなに強い回転や速い打球を打たれてもストレス無くカットができて安定します」という評価は、このラバーの核心的な価値を示しています。
短所:限定的な攻撃性能と硬いスポンジ
一方で、短所として最も多く指摘されるのが攻撃性能の低さです。特に、現代の主流であるテンションラバーと比較すると、スピードは明らかに劣ります。「このラバーは全く攻撃できない」「ループにはスピンが不十分」といった厳しい意見もあり、攻撃を主軸とするプレイヤーには不向きです。
もう一つの課題は、41°という硬いスポンジを使いこなす難しさです。中途半端なインパクトではボールが弾まず、回転もかかりません。このラバーの性能を最大限に引き出すには、レビューで指摘されているように「体全体を使った中国式のようなフルスイング」が必要となります。十分なフィジカルと正しいフォームがなければ、宝の持ち腐れになる可能性も否定できません。
初代「タキネス チョップ」との比較
「タキネス チョップ II」を検討する上で、初代モデルとの違いを理解することは非常に重要です。両者の最大の違いは、前述の通りスポンジ硬度にあります。
スポンジ硬度の違いがもたらす性能差
初代「タキネス チョップ」は硬度32°の柔らかいスポンジを採用しており、ボールが食い込みやすく、非常に高いコントロール性能を誇ります。球持ちが良いため、回転をかける感覚を掴みやすく、安定性を最優先するクラシックなカットマンに愛用されてきました。
対して「タキネス チョップ II」の硬度41°のスポンジは、より強いインパクトでボールを弾き出します。これにより、より鋭く、重いスピンのカットが可能になり、限定的ながらも攻撃時の威力が向上しました。しかし、その代償として、初代ほどの球持ちの良さや扱いやすさは若干失われています。
結論として、以下のように棲み分けができます。
- タキネス チョップ: 安定性、コントロール、球持ちを最優先するプレイヤー向け。
- タキネス チョップ II: コントロールを維持しつつ、カットの切れ味とスピン量、そして若干の攻撃力を上乗せしたいプレイヤー向け。
どのようなプレイヤーにおすすめか?
これまでの分析を踏まえ、「タキネス チョップ II」が最適なプレイヤー像を具体的に示します。
- 現代的なカット主戦型プレイヤー
守備で粘りながらも、チャンスがあれば積極的に攻撃を仕掛けたいモダンディフェンダーに最適です。カットの切れ味で相手を追い込み、甘い返球をドライブやスマッシュで打ち抜くスタイルを目指す選手にとって、強力な武器となります。 - スピンとコントロールを重視するオールラウンダー
スピードよりも回転量と安定性を重視する選手にも適しています。特にバック面に使用し、安定したブロックやツッツキで試合を組み立て、フォア面の攻撃的なラバーで得点を狙うといった組み合わせで効果を発揮します。 - テンションラバーから移行を考える守備型選手
テンションラバーのスピードに振り回され、コントロールに課題を感じている守備型プレイヤーにとって、このラバーは良い選択肢となり得ます。基礎的なカット技術を安定させ、回転で勝負する感覚を取り戻すのに役立ちます。
ただし、前述の通り、このラバーは使い手を選びます。特に、しっかりとしたスイングができない初心者や、攻撃的なプレーを主体としたい選手には推奨されません。
結論:現代卓球におけるタキネス チョップ IIの価値
「タキネス チョップ II」は、テンションラバーが全盛の現代卓球において、異彩を放つ存在です。その低速・高スピン・高コントロールという特性は、スピード一辺倒のラリーに一石を投じ、戦術の多様性を生み出します。
このラバーは、単なる守備用具ではありません。「回転で相手を支配する」という卓球の根源的な面白さを追求し、使い手の技術とフィジカルに応えてくれる奥深いラバーです。カットの基礎を習得し、次のステップとして「より切れたボール」を求めるプレイヤーにとって、「タキネス チョップ II」は、長く付き合える信頼のパートナーとなるでしょう。




