卓球の世界では、用具の進化がプレースタイルそのものを変革してきました。特に、相手の回転を利用し、予測不能なボールを生み出すツブ高ラバーは、多くの選手にとって強力な武器です。しかし、従来のツブ高ラバーは「変化は大きいが攻撃しにくい」「安定はするが変化が物足りない」といったジレンマを抱えていました。この課題に一石を投じるべく、卓球用品のリーディングカンパニーであるバタフライが2021年11月1日に発売したのが『イリウスB』です。
『イリウスB』は、「変化と攻撃のしやすさ」を高い次元で両立させることをコンセプトに開発された、全く新しいツブ高ラバーです。特に前陣でのプレーを主戦場とする選手にとって、その性能は大きなアドバンテージとなるでしょう。
本記事では、この『イリウスB』の性能を、技術的な背景、データ分析、使用者レビューなど多角的な視点から徹底的に掘り下げ、その魅力と可能性に迫ります。
イリウスBとは:新時代の攻撃的ツブ高
『イリウスB』は、従来のツブ高ラバーの守備的なイメージを覆し、前陣での積極的な攻守を可能にするために設計されました。カット性ブロックで短く止める、鋭いナックル性プッシュで攻めるなど、多彩な戦術を高いレベルで実現します。
製品の基本スペック
まず、『イリウスB』の基本的な仕様を確認しましょう。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 発売日 | 2021年11月1日 |
| タイプ | ツブ高ラバー |
| テクノロジー | アブソーバー スポンジ ドロップ |
| スポンジ硬度 | 48度 |
| スポンジ厚 | 1.3mm (ウス), 1.1mm (ゴクウス), 0.5mm (超ゴクウス) |
| シートカラー | レッド、ブラック |
| 価格 | 2,970円(税込) |
| 原産国 | 日本 |
核心技術:アブソーバー スポンジ ドロップの秘密
『イリウスB』の性能を語る上で欠かせないのが、バタフライが独自に開発した新技術「アブソーバー スポンジ ドロップ」です。このターコイズグリーンのスポンジは、イリウスBの心臓部とも言える存在です。
この技術の最大の特徴は、48度という硬めのスポンジにあります。一般的に、スポンジが硬いとツブが倒れやすくなり、ボールの回転を反転させる効果(ツブ高効果)が高まり、変化の大きいボールが出やすくなります。しかし、同時にボールが弾みすぎてしまい、コントロールが難しくなるというデメリットがありました。
「アブソーバー スポンジ ドロップ」は、この問題を解決します。硬さを保ちながらも、相手の打球の衝撃を効果的に吸収する特殊な構造を持っています。これにより、ツブが倒れて大きな変化を生み出しつつも、ボールが飛びすぎることなく台に収まりやすくなり、「変化」と「安定性」という相反する要素の両立を可能にしたのです。
性能の徹底分析:データが示す実力
『イリウスB』の性能を客観的なデータから分析してみましょう。バタフライが公表している性能指標は「安定性:6」「変化:7」(10段階評価)となっており、安定性よりも変化を重視した設計であることがわかります。
シートの特性:耐久性とルール限界設計
『イリウスB』のシート(ツブのある表面部分)は、カット主戦型の『イリウスS』と共通のものが採用されています。このシートには、以下の2つの大きな特徴があります。
- ルール限界のツブ形状:ツブ高ラバーの効果を最大限に引き出すため、国際ルールで許される限界までツブを細長く設計。これにより、ツブが倒れやすくなり、大きな変化を生み出します。
- 向上した耐久性:変化を追求するとツブが切れやすくなるのが一般的ですが、独自の配合技術により、従来の『フェイント ロング3』と比較してツブの切れにくさが倍以上に向上しています。これにより、性能を長期間維持しやすくなりました。
この高性能なシートと「アブソーバー スポンジ ドロップ」の組み合わせが、『イリウスB』の独創的な性能の源泉となっています。
技術別パフォーマンス評価
バタフライは、主要な技術における「安定性」と「変化」を評価したチャートを公開しています。これをグラフで可視化すると、『イリウスB』の得意なプレーがより明確になります。
以下の点が読み取れます。
- ブロック性能の高さ:「ブロック」の項目では、安定性が「8」と突出して高く、変化も「7」と高水準です。これは、相手の強打を前陣で確実に止め、かつ嫌らしいボールで返球できることを示しています。
- 変化を重視したツッツキ:「ツッツキ」では安定性が「5」であるのに対し、変化が「8」と最も高い評価になっています。低く滑るような、あるいは揺れるようなナックル性のツッツキで相手のミスを誘うプレーに適しています。
- 攻撃的なプッシュ:「プッシュ」は安定性「4」、変化「7」となっており、守備的なプッシュよりも、変化をつけた攻撃的なプッシュでチャンスメイクを狙うスタイルに向いていることがわかります。
イリウスSとの比較:どちらを選ぶべきか?
イリウスシリーズには、カット主戦型向けの『イリウスS』もラインナップされています。どちらを選ぶべきか迷う選手も多いでしょう。両者の最も大きな違いは、搭載されているスポンジにあります。
- イリウスB:スポンジ硬度48度の「アブソーバー スポンジ ドロップ」を搭載。よりツブが倒れやすく、高いツブ高効果と変化を追求。前陣でのブロックや攻撃的なプレーを主体とする選手向け。
- イリウスS:スポンジ硬度45度の「アブソーバー スポンジ ヘビー」を搭載。ボールの衝撃吸収性を重視し、安定したカットやツッツキのやりやすさを追求。中~後陣でのカット主戦型の選手向け。
『イリウスB』は「総合変化」と「攻撃性能」で『イリウスS』を上回る一方、『イリウスS』は「総合安定性」と「カット安定性」で優位に立っています。自分のプレースタイルと、ラバーに求める性能を照らし合わせて選択することが重要です。
使用者の声:リアルな評価とレビュー
『イリウスB』は、発売以来多くのプレイヤーによって試され、様々なレビューが寄せられています。ここでは、複数のレビューサイトから共通して見られる評価をまとめます。
攻撃性能への高評価
最も多くのレビューで絶賛されているのが、その攻撃性能の高さです。ある上級者ユーザーは「粒高のなかで攻撃はトップクラス」「チキータのようにして上回転系の攻撃ができる」と評価しており、従来の粒高では難しかった攻撃的なプレーが可能になった点を高く評価しています。
「カットにブロック、攻撃まで出来てしまう万能粒高!特に粒高でありながら、この攻撃力は圧倒的!上級者でも満足できる素晴らしいラバーでした。」
安定性と変化のバランス
「粒高なのに滑らない」という評価も特徴的です。ボールをガッチリと掴む感覚があり、意図した通りの返球がしやすいという声が多く見られます。変化の大きさ自体は、「カールP1V」のような変化特化型ラバーよりは控えめですが、安定して変化を出し続けられる点が評価されています。目に見えるボールの揺れは少なくても、相手にとっては取りづらい質の高いナックルボールが出ると言われています。
使用上の注意点
一方で、いくつかの注意点も指摘されています。一つは「相手の回転の影響を受けやすい」という点です。ボールを掴む感覚が強い分、相手の強い回転がかかったボールを処理する際には、少し技術が求められるようです。また、自分から強い回転をかけるには、しっかりとしたインパクトが必要で、ただ当てるだけでは十分な回転量や変化は得られないという意見もあります。
推奨されるラケットの組み合わせ
バタフライ公式サイトでは、『イリウスB』の性能を最大限に引き出す組み合わせとして、以下のラケットを推奨しています。
- コルベル:球持ちの良さに定評がある5枚合板ラケット。ボールを掴む感覚を重視し、ツブ高の効果を安定して引き出したい選手向け。
- SK7クラシック:弾みの良い7枚合板ラケット。イリウスBの攻撃性能をさらに高め、よりパワフルなプレーを求める選手向け。
これらの木材合板ラケットは、イリウスBの持つボールを掴む感覚と衝撃吸収性を損なうことなく、ツブ高の効果を最大限に発揮させる組み合わせと言えるでしょう。
まとめ:イリウスBはどんな選手におすすめか?
『バタフライ イリウスB』は、単なる守備的な用具ではなく、「変化で崩し、攻撃で仕留める」という新しい戦術を可能にする、革新的なツブ高ラバーです。
この記事の要点をまとめると、イリウスBは以下のような選手に特におすすめできます。
- 前陣を主戦場とする異質攻撃型の選手
- ブロックでチャンスを作り、積極的に攻撃に転じたい選手
- 従来のツブ高では攻撃力に物足りなさを感じていた選手
- 安定感を保ちつつ、質の高いナックルボールで相手を揺さぶりたい選手
一方で、カットを主体とする選手や、ラバーの性能に頼って自動的に変化を出したい選手には、『イリウスS』や他の変化特化型ラバーの方が適しているかもしれません。
『イリウスB』は、使い手の技術や戦術次第で、その可能性が無限に広がるラバーです。守備から攻撃へのスムーズな移行を実現し、あなたの卓球を新たな次元へと引き上げてくれるポテンシャルを秘めています。




