ニッタク モリストSP AX 徹底レビュー:常識を覆す「噛みつく」スピン系表ソフトの実力


「噛みつく表ソフト」モリストSP AXとは?

ニッタクが2018年10月に市場に投入した「モリストSP AX」は、そのキャッチコピー「噛みつく表ソフト」が示す通り、従来の表ソフトラバーの常識に一石を投じる製品です。長年にわたりトップ選手から愛好家まで幅広く支持されてきたロングセラー「モリストSP」の系譜を受け継ぎながら、より攻撃的な性能を追求して開発されました。

「モリストSP」を更に攻撃的なスペックへと引き上げた、超攻撃的な表ソフト。

その本質は、表ソフトの持ち味であるスピードや球離れの良さを維持しつつ、裏ソフトラバーのような高い回転性能を融合させた点にあります。本記事では、この「モリストSP AX」が持つ真の実力を、性能データ、技術的な特徴、そしてライバル製品との比較を通じて徹底的に解剖します。

性能の全体像:数値で見るモリストSP AX

公式性能値とポジショニング

まず、ニッタクが公表している性能値を見てみましょう。これにより、ラバーの基本的な性格を客観的に把握できます。

  • スピード: 13.00
  • スピン: 8.50
  • スポンジ硬度: 30.0(ドイツ基準:40.0)

スピード値「13.00」は、兄貴分であるモリストSPの「12.50」を上回り、高い攻撃性能を示唆しています。特筆すべきはスピン値「8.50」で、これは表ソフトラバーとしては非常に高い数値です。一方で、スポンジ硬度はモリストSPと同じ「30.0」と比較的柔らかめに設定されており、これがコントロール性能と独特の打球感にどう影響するのかが注目されます。

以下のレーダーチャートは、これらの公式数値と多数のレビューから総合的に評価したモリストSP AXの性能バランスです。「攻撃」と「スピン」に大きく振られた性能でありながら、一定の「コントロール」も確保していることがわかります。一方で、「変化(Deception)」の評価は低く、ナックルボールの出しやすさよりも回転性能を重視した設計であることが明確です。

核心的特徴の深掘り:なぜ「噛みつく」のか?

モリストSP AXの「噛みつく」というユニークな特性は、その物理的な構造に秘密が隠されています。ここでは、その核心的な3つの特徴を掘り下げていきます。

特徴1:裏ソフトに迫る「回転性能」の秘密

モリストSP AXが他の多くの表ソフトと一線を画す最大の理由は、その卓越した回転性能です。多くのユーザーが「裏ソフトに近い感覚でドライブが打てる」と評価しており、その秘密は粒の形状と配列にあります。

  • 横目の粒配列: 従来のモリストSPがボールの直進性を高める「縦目」だったのに対し、AXは回転をかけやすい「横目」を採用しています。
  • 大きく、間隔の狭い粒: 粒の直径が大きく、粒同士の間隔が狭い設計になっています。これにより、ボールとの接触面積が増え、シートがボールをしっかりと「掴む(噛みつく)」感覚が生まれます。

この構造により、ツッツキやチキータといった台上技術でも強烈な回転をかけることが可能になり、相手のレシーブを限定させ、攻撃の主導権を握りやすくなります。まさに「噛みついたら離さない」というキャッチコピー通りの性能です。

特徴2:ドイツ製テンションがもたらす「圧倒的なスピード」

モリストSP AXは、ドイツ製の高性能テンションスポンジを採用しています。この「ESNテクノロジー」によって製造されたスポンジは、高い反発弾性を持ち、ボールに強烈なスピードを与えます。

打球時に食い込みが抑えられている事や球離れの良さがある事でコンパクトなスイングでピッチを重視した打球であっても非常にスピードのあるボールを打って行く事が可能です。弾道がシャープで直線的ですね。

この特性により、前陣での速いテンポのラリーで相手を圧倒できます。特に、コンパクトなスイングでも鋭いボールを繰り出せるため、相手の強打に対するカウンターや、甘いボールへのスマッシュで絶大な威力を発揮します。

特徴3:攻撃性と安定性を両立する「絶妙なバランス」

非常に高い攻撃性能を持つ一方で、モリストSP AXは意外なほどのコントロール性能も兼ね備えています。その鍵は、硬度30.0という比較的柔らかいスポンジにあります。

この柔らかいスポンジがインパクト時にボールを適度に食い込ませ、「球持ち」の良さを生み出します。これにより、プレイヤーは打球の方向や長短をコントロールする時間的な余裕を得ることができます。多くのレビューで「安定感抜群」「コントロールを重視したい選手に向いている」と評されるのはこのためです。

ただし、テンションラバー特有の強い弾みは健在です。特にループドライブや台上処理など、繊細なタッチが求められる場面では「飛び出しが早い」「シビアなタッチが要求される」という側面もあり、その性能を最大限に引き出すには一定の慣れと技術が必要となります。

技術別レビュー:プレースタイルへの影響

モリストSP AXの特性が、実際のプレーでどのように機能するのかを技術別に見ていきましょう。

ドライブ・強打

長所:シートの強いグリップ力により、下回転に対しても安定してボールを持ち上げることができます。「回転がかかり伸びのあるドライブは、安定感抜群」と多くの販売サイトで謳われている通りです。裏ソフトに近い感覚でループドライブからスピードドライブまで打ち分けることができ、特にバックハンドでの使用時にその威力を発揮するというレビューが多く見られます。

注意点:弾道は直線的で、弧線を描きやすい裏ソフトとは感覚が異なります。威力はありますが、相手にとっては比較的ブロックしやすい素直な球筋になる傾向があります。

ブロック・カウンター

長所:柔らかいスポンジが相手の回転の影響を吸収しやすく、安定したブロックが可能です。また、球離れの速さを活かして、相手のドライブに対してスピードのあるカウンターブロックを繰り出すことができます。「ブロックが失速しないのも特徴」と評されています。

注意点:回転性能を重視した設計のため、モリストSPのような意図しないナックルボールは出にくいです。「ナックルは出しづらい」という評価が一般的で、変化で相手を惑わすよりも、スピードとコースで勝負するプレースタイルに向いています。

台上技術(ツッツキ・フリック)

長所:シートの引っかかりが良いため、ツッツキは低く鋭く、しっかりと切ることができます。また、回転をかけやすい特性はフリック(特にチキータ)でも活かされ、攻撃的なレシーブが可能です。

注意点:テンションラバー特有の弾みの強さが、ストップなどの繊細な技術を難しくする要因となります。ボールが浮きやすく、オーバーミスにつながる可能性があるため、インパクトの瞬間のタッチが非常に重要になります。

ライバル製品との徹底比較

モリストSP AXの真価を理解するためには、他のラバーとの比較が不可欠です。ここでは、最大の比較対象である「モリストSP」と、他の回転系表ソフトとの違いを明確にします。

永遠のライバル「モリストSP」との違い

同じ「モリストSP」の名を冠しながら、AXと無印は全く異なるコンセプトを持つラバーです。その違いは、伊藤美誠選手が愛用する「超多才な万能型」のモリストSPと、「攻撃特化のスピン型」であるモリストSP AXという対比で理解できます。

性能項目 モリストSP AX モリストSP
コンセプト 噛みつくスピン表(攻撃特化) 超多才な万能表(バランス重視)
粒配列 横目 縦目
得意な球質 回転量の多いドライブ、スピードボール ナックル性のブロック、スピードスマッシュ
スピード (公式) 13.00 12.50
スピン (公式) 8.50 7.50
変化の出しやすさ 出しにくい 出しやすい
推奨プレイヤー 回転を武器に攻撃したい選手 スピードと変化で揺さぶりたい選手
簡単に言えば、「回転とスピードで押し切りたいならAX、スピードとナックル変化で揺さぶりたいなら無印SP」という選択になります。AXはより現代的な攻撃卓球に適応した進化版と言えるでしょう。

他の回転系表ソフトとのポジショニング

市場には、バタフライの「インパーシャルXS」やVICTASの「VO>;102」など、他にも優れた回転系・スピード系表ソフトが存在します。右の図は、それらのラバーとモリストSP AXの性能を「スピード」と「スピン」の2軸で比較したものです。

この図から、モリストSP AXがスピードとスピンの両方を非常に高いレベルで両立させていることがわかります。インパーシャルXSはスピン性能でわずかに上回るかもしれませんが、スピードではAXに分があります。一方、スピード系の代表格であるVO>102と比較すると、スピン性能で明確なアドバンテージを持っています。

この「高次元でのバランス」こそが、モリストSP AXの最大の強みであり、他の追随を許さない独自のポジションを築いている理由です。

推奨プレイヤー像:このラバーは誰に最適か?

これまでの分析を踏まえ、モリストSP AXが特にその性能を発揮できるプレイヤー像を以下にまとめます。

  1. 表ソフトでもドライブを多用したい攻撃型プレイヤー
    「表ソフトはスマッシュやミート打ちが中心」という固定観念を覆したい選手に最適です。裏ソフトのように回転をかけて攻めるスタイルを、表ソフトのスピード感の中で実現できます。
  2. 裏ソフトから表ソフトへの移行を検討している選手
    裏ソフトに近い打球感覚で扱えるため、移行時の違和感が少ないです。特にバックハンドの安定性と攻撃力を両立させたいシェークハンドの選手にとって、強力な武器となるでしょう。
  3. 前陣での高速ピッチラリーを主戦場とする選手
    コンパクトなスイングでも鋭いボールが打てるため、前陣に張り付いて速いテンポで攻めるスタイルに非常にマッチします。相手に時間を与えず、連続攻撃で圧倒したい選手におすすめです。

結論:表ソフトの新たな可能性を切り拓く一枚

ニッタク「モリストSP AX」は、単なるモリストSPの派生モデルではありません。それは、「回転」という要素を表ソフトの新たな武器として確立させた、革新的なラバーです。

卓越したスピン性能とドイツ製テンション技術がもたらす圧倒的なスピードを両立させながら、柔らかめのスポンジによってコントロール性能も確保。これにより、従来の表ソフトでは難しかった「回転で作り、スピードで決める」という戦術を可能にしました。

もちろん、その強い弾みをコントロールするには相応の技術が求められます。しかし、そのポテンシャルを最大限に引き出すことができたとき、モリストSP AXはプレイヤーにこれまで経験したことのない攻撃力と戦術の幅をもたらしてくれるでしょう。「噛みつく表ソフト」は、あなたの卓球を新たな次元へと導く、まさにゲームチェンジャーとなり得る一枚です。