ニッタク「モリストSP」徹底レビュー:伊藤美誠も愛用する“超多才”表ソフトの真実


2002年の発売以来、20年以上にわたり卓球界の第一線で愛され続けるニッタクの表ソフトラバー「モリストSP」。なぜこのラバーは、時代の変化や用具の進化の中でも色褪せることなく、トッププロから一般プレイヤーまで幅広い層に選ばれ続けるのでしょうか。特に、女子日本代表のエース・伊藤美誠選手がバック面で長年愛用していることはあまりにも有名です。本記事では、数々のレビューやデータを基に、モリストSPが持つ「超多才」な性能の秘密を徹底的に解剖し、その真の価値に迫ります。

1. モリストSPとは?基本スペックと価格

まずは、モリストSPがどのようなラバーなのか、基本的な情報から確認していきましょう。

製品概要

モリストSPは、ニッタクが販売するドイツ製テンションスポンジを採用したテンション系表ソフトラバーです。メーカーのキャッチコピーは「超多才な表ソフト」。その言葉通り、スピード、スピン、そして表ソフト特有の変化(ナックル)を高いレベルで両立していることが最大の特徴です。

項目 仕様
メーカー ニッタク (Nittaku)
品番 NR-8670
分類 テンション系 表ソフトラバー
スポンジ硬度 30.0 (ドイツ基準 40.0)
メーカー公表性能値 スピード: 12.50, スピン: 7.50
粒配列 縦目
厚さ 中、厚、特厚、MAX
カラー レッド、ブラック

価格情報

モリストSPのメーカー希望小売価格は5,720円(税抜5,200円)です。
ただし、卓球用品を扱うオンラインショップでは割引価格で販売されていることが多く、実勢価格は3,000円台後半から4,000円台前半が中心となっています(2025年11月時点)。価格比較サイトなどを利用すると、よりお得に購入できる可能性があります。

2. 性能を解剖する:モリストSPが「超多才」と呼ばれる3つの理由

モリストSPの核心は、その驚異的なバランス性能にあります。特定の性能が突出した「一点特化型」ではなく、あらゆる要素を高次元で融合させています。ここでは、その「超多才」ぶりを支える3つの核心的特徴を掘り下げます。

特徴1:テンションがもたらす「シャープなスピードボール」

モリストSPの性能の根幹をなすのが、ドイツ製のテンションスポンジです。このスポンジがもたらす高い反発力により、直線的でシャープなスピードボールを繰り出すことが可能です。特に前陣での速攻プレーにおいてその威力は絶大で、コンパクトなスイングでも相手のコートを鋭く突き刺すボールを打てます。チャンスボールに対するスマッシュやミート打ちは、このラバーの真骨頂と言えるでしょう。

特徴2:予測不能な「自然に生まれるナックルボール」

スピードだけなら他の表ソフトにも優れたものはありますが、モリストSPが特別なのは、そこに予測不能なナックルボールが加わる点です。その秘密は「縦目」の粒配列と独特の粒形状にあります。これにより、意図しなくても自然なナックル(無回転ボール)が発生しやすくなっています。特に相手の強打に対するブロックでは、ボールが揺れたり失速したりするいやらしい変化が生まれ、相手のリズムを効果的に崩すことができます。伊藤美誠選手も「自分でも予測できないくらい、回転がかかったりナックルになったりしていやらしいボールが出る」とコメントしており、この予測不能性が最大の戦略的価値の一つです。

特徴3:矛盾を両立する「絶妙なトータルバランス」

「スピード」と「変化(ナックル)」は、多くの場合トレードオフの関係にあります。しかしモリストSPは、この二つの相反する要素を驚くほど高い次元で両立させています。その鍵を握るのが、30.0度という柔らかめのスポンジと、ボールを掴む感覚を生むシート設計です。柔らかいスポンジがボールの食い込みを良くし、テンション系とは思えないほどの高いコントロール性能を実現。これにより、スピードボールを打ち出す際も、ナックルブロックをする際も、ボールが暴発することなく安定したプレーが可能になります。この「攻撃力」「変化」「安定性」の三位一体こそが、モリストSPが「超多才」と称される所以です。

3. 技術別レビュー:実戦での使用感

カタログスペックだけでは分からない、実際のプレーにおける使用感を技術別にまとめました。多くのユーザーレビューから見えてくる、モリストSPの実力とは。

ミート打ち・スマッシュ:決定力の源泉

長所:テンション効果により、非常に速く直線的なボールが打てます。コンパクトなスイングでも決定打になり得る威力を誇り、速攻型のプレースタイルに最適です。多くのレビューで「弾きやすい」「スマッシュに向いている」と評価されています。
短所:弾みが良いため、ボールを抑える感覚を掴むまではオーバーミスが出やすい側面もあります。ラバーに食い込ませるより、正しい角度で弾く感覚が重要です。

ブロック:最大の武器となる「変化」

長所:相手の強烈なドライブに対しても、ラケットの角度を合わせるだけで非常に楽に返球できます。そして最大の特徴は、当てるだけで自然とボールがナックル性になり、相手のリズムを大きく崩せることです。守備技術でありながら、攻撃の起点となり得る強力な武器です。
短所:意図的に回転をかけてブロック(カウンター)するには、裏ソフトほどの安定感はありません。基本的には当てるだけのナックルブロックが主体となります。

ドライブ&チキータ:表ソフトの常識を超える回転操作

長所:縦目の表ソフトとしては回転がかけやすく、安定したドライブが可能です。また、チキータも「予想以上に簡単にできた」とのレビューがあり、裏ソフトのような強烈な回転ではないものの、滑るような球質で相手にとって非常に取りにくいボールになります。
短所:裏ソフトのような強烈な弧線を描くループドライブは困難です。ボールのライジングを捉え、厚く当てて押し出すような打ち方が有効になります。

4. ライバル比較:モリストSP AX、VO>102との違い

モリストSPの立ち位置をより明確にするため、派生モデルである「モリストSP AX」や、他社の人気表ソフトと比較します。

モリストSP vs モリストSP AX:「バランス」か「回転」か

2018年に発売された「モリストSP AX」は、SPの派生モデルです。両者の違いは明確で、ラバー選びの重要なポイントになります。

  • モリストSP「縦目」の粒配列。スピードとナックルのバランスを重視。自然な変化が出やすく、表ソフトらしい戦い方が得意。
  • モリストSP AX「横目」の粒配列。キャッチコピーは「噛みつく表ソフト」。回転性能を極限まで高めており、裏ソフトに近い感覚でドライブが打てる。

簡単に言えば、「表ソフトらしさ(スピードと変化)を追求するならSP」、「表ソフトで回転を武器にしたいならAX」という選択になります。AXはスピン性能が高い分、SPほど自然なナックルは出にくく、より自ら回転を作り出すプレーヤーに向いています。

他社ライバル製品とのポジショニング

市場には多くの優れた表ソフトが存在します。その中でのモリストSPの立ち位置を、ポジショニングマップで見てみましょう。

データソース: 各社製品情報および複数レビューサイトの評価を基に総合的に作成
  • VO>;102 (VICTAS): スピード性能に特化しており、マップの右端に位置します。直線的な弾道で打ち抜くパワーを求める選手向けです。
  • ブースターSA (ミズノ): モリストSPと同様にバランスの取れた性能で、非常に近い位置にプロットされます。打球感の好みで選ばれることが多いライバルです。
  • モリストSP AX (ニッタク): スピードとスピンの両方が高く、マップの右上に位置します。裏ソフトからの移行でも違和感が少ない回転系表ソフトの代表格です。

この中でモリストSPは、高いスピード性能を維持しつつ、ナックルという変化要素とコントロール性能を最もバランス良く備えた「万能型」としての独自の地位を確立していることがわかります。

5. 伊藤美誠はなぜモリストSPを選ぶのか?

モリストSPを語る上で、伊藤美誠選手の存在は欠かせません。彼女はなぜ、より回転のかかるAXではなく、SPを使い続けるのでしょうか。

予測不能なプレースタイルとの合致

伊藤選手の卓球の真骨頂は、その予測不能性にあります。同じフォームから、回転量の多いドライブ、スピードのあるスマッシュ、そして相手の意表を突くナックル性のブロックやプッシュを繰り出します。この多彩な球質を自在に操るスタイルと、モリストSPの「回転もかかり、ナックルも自然に出る」という特性が完璧に合致しているのです。彼女自身が「いろいろな球質を出せるし、出そうとしなくても出てくれるのがすごい」と語るように、モリストSPは彼女の天才的なボールタッチを最大限に引き出すための最適なツールと言えます。

「飛びがいいから、モリストSPと比べてもコートの深い位置にボールが入ります。また回転がかかりやすいので、裏ソフトラバーのようにドライブが打てることも特徴ですね。」 – 伊藤美誠選手のモリストSP AXに対するコメント

このコメントから、伊藤選手はAXの性能を高く評価しつつも、自身のプレースタイルにはSPが持つ「意図しない変化」を含めたバランスが不可欠であると考えていることが伺えます。一般プレイヤーが「伊藤美誠選手のようなプレー」を目指す場合、彼女の思想をより簡単に実現できる「モリストSP AX」も有力な選択肢となりますが、本家が選ぶSPには唯一無二の魅力があるのです。

6. モリストSPの長所と短所(メリット・デメリット)

どんな優れた用具にも長所と短所があります。モリストSPを選ぶ前に、両方を把握しておきましょう。

メリット:万能性と戦略の幅

  • 多彩な戦術が可能: スピードボールでの攻撃と、ナックルブロックでの守備・変化を一枚で両立できます。これにより、単調なプレーから脱却し、戦術の幅が大きく広がります。
  • 高いコントロール性能: テンション系でありながらスポンジが柔らかいため、扱いやすいのが特徴です。裏ソフトからの移行や、表ソフト初心者でも比較的スムーズに馴染むことができます。
  • 決定力の高さ: 前陣でのミート打ちやスマッシュは非常に鋭く、チャンスボールを確実に得点に繋げる力があります。

デメリット:湿気への弱さと細かい技術の難易度

  • 湿気に非常に弱い: 多くのユーザーが指摘する最大の弱点です。湿度の高い日にはボールがスリップしやすく、性能が著しく低下することがあります。試合会場の環境によっては、パフォーマンスに影響が出る可能性があります。
  • 台上技術の難易度: 弾みが良いため、ストップなどの非常に繊細な台上技術は、慣れるまでコントロールが難しいと感じる場合があります。一部のレビューでは「台上処理は上級者向け」との声もあります。

7. 結論:モリストSPはどんな選手におすすめか?

これまでの分析を踏まえ、モリストSPが特にどのような選手にとって最高のパートナーとなり得るのか、具体的なプレイヤー像を3つのタイプに分けて提案します。

推奨プレイヤー像①:スピードと変化で戦術を組み立てたい選手

攻撃力だけでなく、相手を揺さぶるプレーもしたい、という欲張りな要求に応えてくれるのがモリストSPです。速いラリーで主導権を握りつつ、要所でナックル性のボールを混ぜて相手のリズムを崩す。このような緩急と球質の変化を武器に、戦術的な卓球を目指す選手に最適です。

推奨プレイヤー像②:表ソフトへの移行・ステップアップを目指す中級者

「表ソフトに挑戦したいが、扱えるか不安」「今の表ソフトから、より攻撃的なラバーに変えたい」と考えている中級者にとって、モリストSPは最適な選択肢の一つです。テンション系の威力を体感しながらも、その高いコントロール性能が技術習得をサポートしてくれます。表ソフトの基本である「弾く感覚」と「変化の出し方」をバランス良く学べる、いわば「教科書」のようなラバーです。

推奨プレイヤー像③:バックハンドを武器にしたいシェークハンド選手

多くのレビューでバック面での使用が推奨されている通り、シェークハンドのバックを武器にしたい選手に強くおすすめします。コンパクトなスイングでも鋭いボールが出せ、身体の正面で捉えるバックブロックはモリストSPのナックル性能を最大限に引き出せます。相手のドライブをナックルブロックで止め、チャンスボールをフォアで決める、という黄金パターンを確立したい選手にとって理想的なラバーです。

まとめ

ニッタクの「モリストSP」は、単なるスピード系でも、単なる変化系でもない、唯一無二の存在です。それは、「テンションスポンジがもたらす直線的なスピードボール」と、「縦目の粒形状が生み出す予測不能なナックルボール」という、本来相反する二つの武器を、「柔らかいスポンジが実現する高いコントロール性能」によって高次元で両立させた「超多才」なラバーです。

この絶妙なバランスこそが、モリストSPが20年以上にわたり、初心者から世界のトップで戦う伊藤美誠選手まで、幅広い層の高度な要求に応え続けてきた理由です。もしあなたが、「今のプレースタイルにもう一つの武器を加えたい」「単調なプレーから脱却し、より戦術的な卓球を目指したい」と本気で考えているのであれば、モリストSPは間違いなく試す価値のある一枚です。この「超多才」なラバーを手にし、あなたの卓球を新たな次元へと引き上げてみてはいかがでしょうか。