2025年10月1日、卓球用品メーカーのバタフライ(株式会社タマス)から、待望の新作ハイテンション裏ソフトラバー「ザイア03」が発売されました。テナジー、ディグニクスに続く「第四の革新」と銘打たれたこのラバーは、その独特な構造と性能で瞬く間にトップ選手から愛好家まで、幅広い層の注目を集めています。特に議論の的となっているのが、その「硬度」です。公式発表の数値と、多くのプレイヤーが語る実際の打球感には、興味深いギャップが存在します。本記事では、参考資料を基に「ザイア03」の硬度にまつわる謎を解き明かし、その性能の本質に迫ります。
ザイア03の基本スペック:「硬度44度」の公式発表
まず、バタフライが公式に発表している「ザイア03」の基本性能を確認しましょう。
- スポンジ硬度: 44度
- テクノロジー: ハイテンション、スプリング スポンジX、リコシート
- スピード: 88
- スピン: 100
- 弧線: 96
- スポンジ厚: 2.7mm、2.5mm
公式データによると、スポンジ硬度は44度とされています。これは、同社の「ディグニクス05」(硬度40度)より硬く、「ディグニクス09C」(硬度44度)と同等の数値です。一般的に44度は硬めの部類に入り、パワーヒッター向けのラバーという印象を与えます。また、スピン性能が「100」と非常に高く評価されている点も特徴です。
数値だけでは語れない「体感硬度」の謎
公式硬度44度という数値にもかかわらず、多くの試打レビューでは、それを上回る硬さを感じると報告されています。あるレビューでは、ドイツ硬度に換算すると「54°程度で、打球感的にもその辺り」だと評されています。これは、一般的なドイツ製ラバーの中でも非常に硬いカテゴリーに属する感覚です。
シェークのレギュラーブレードで50g近辺ってところですかね。ドイツ硬度で言うと54°程度で、打球感的にもその辺りだと思います。この辺りの硬度の中では平均程度の総合硬度か、ちょっと軟らかくもあるかな、と思います。ガチガチの岩みたいなラバーとかではないです。
しかし、興味深いことに「ガチガチの岩みたいではない」という補足もされており、単に硬いだけではない複雑な打球感であることが示唆されています。一方で、ある卓球情報サイトでは、硬度計で実測したところ「D(ディグニクス)と比較しても5°以上柔らかい」という驚きの結果も報告されており、情報が錯綜しています。この公式数値と体感のギャップこそが、「ザイア03」を理解する上での鍵となります。
なぜ体感硬度とのギャップが生まれるのか?
このギャップの最大の理由は、「ザイア03」が採用する革新的な構造にあります。バタフライの公式解説によると、このラバーは特許技術「リコシート」と呼ばれる「薄めのシート」と、ルール上限に迫る「厚めのスポンジ」を組み合わせています。
- 薄いトップシート: ボールが当たった際のシートのたわみが少なく、インパクトの力がスポンジに直接伝わりやすい。これにより、スポンジ自体の硬さがダイレクトに感じられます。
- 硬めのスプリング スポンジX: スポンジ自体の硬度が44度と高いため、強いインパクトではしっかりとした硬い手応えを生み出します。
つまり、弱いインパクトではシートの薄さからボールの感触が掴みにくく、強いインパクトでは硬いスポンジの性能が前面に出るため、打つ強さによって硬さの感じ方が大きく変わるのです。これが「硬い」と感じる一方で「岩のようではない」という評価や、測定器と体感の乖離につながっていると考えられます。
硬度と独自構造が生み出す特異な性能
この独特の硬度感と構造は、「ザイア03」にこれまでのラバーとは一線を画す性能をもたらしています。
圧倒的なスピードと直線的な弾道
最も多くのユーザーが指摘するのが、その圧倒的なボールスピードです。レビューでは「速度についてはもはや最速としてしまっていい」とまで言われています。硬いスポンジが高い反発力を生み出し、エネルギー効率の良い構造がそれをボールに伝えることで、直線的で非常に速いドライブが可能になります。さらに、初速だけでなく、高いスピン性能(公式値100)によって、ボールは台に着地してからも失速せずに「めちゃくちゃ伸びます」。ただし、その代償として「速度がありすぎて大きな弧線を作ることが難しい」という弱点も持ち合わせています。
硬さの割に軽い:革新的な重量設計
通常、硬いラバーは重くなる傾向にありますが、「ザイア03」はこの常識を覆します。バタフライは、比重の大きいシートを薄くし、比重の小さい気泡を含むスポンジを厚くすることで、硬さを維持しながら全体の重量を抑えることに成功しました。カット後の重量は「シェークのレギュラーブレードで50g近辺」と報告されており、これはディグニクス09C(約52g)よりも軽く、ディグニクス05(約49g)に近い数値です。これにより、スイングスピードの低下を防ぎ、ラケットの総重量をコントロールしやすくなるという大きなメリットがあります。
独特の「薄い」打球感
多くのレビューで共通して語られるのが、「打球感が非常に薄い」「強いグリップ感はない」という感覚です。これは、従来のラバーのようにシートが大きくたわんでボールを「掴む」感覚が希薄なためです。このラバーは、シートの引きつれ(ストレッチ)で性能を発揮するのではなく、シート表面の摩擦力とスポンジの反発力でボールを飛ばす設計になっています。そのため、「自分の培ってきた打球感覚に頼らず、受ける相手の評価を聞きながら調整していく」必要がある、非常に繊細なラバーと言えるでしょう。
硬度と各技術の相性分析
「ザイア03」の硬さと特性は、各技術のやりやすさにも大きく影響します。
- ドライブ: テンションラバーの打ち方、つまりボールを薄く捉えて回転をかけ、前方向に速く振り抜くスイングが最適です。パワーヒッターが「しっかり食い込ませてグリップさせにいくとむしろ落ちます」という点は、最も注意すべきポイントです。
- 対下回転打ち: 一般的には「難しい」と評価されがちです。ボールを食い込ませて持ち上げる感覚が通用しにくいため、当てすぎるとネットミスしやすくなります。しかし、これもドライブ同様、薄く捉えてスイングスピードで振り切ることで、非常に鋭いボールを打ち込むことが可能です。
- ブロック: 相手の回転の影響を受けやすい傾向があります。シートの引きつれによる吸収が少ないため、ただ当てるだけのブロックは難しいかもしれません。少しインパクトを加え、自分で打球の方向性を決めてあげることで、カウンターのような深いボールで反撃できます。
- 台上技術: ストップは驚くほどやりやすいと高評価です。シートが勝手に反発しないため「中国粘着みたいな鈍さ」があり、非常に短く止まります。一方、チキータは前に振る攻撃的なスタイルに向いており、強烈なボールが出せます。
性能比較:ザイア03 vs ディグニクスシリーズ
「ザイア03」の立ち位置をより明確にするため、人気の「ディグニクス05」および同じ硬度の「ディグニクス09C」と性能を比較してみましょう。
- ザイア03: スピード性能が突出しており、他の追随を許しません。弾道は直線的(弧線の低さ)で、従来のラバーとは一線を画す「オンリーワン」な存在です。ただし、ボールを掴む感覚(グリップ感)が薄く、使いこなすには技術が求められます。
- ディグニクス05: スピード、スピン、弧線の高さが非常に高いレベルでバランスが取れています。ボールを掴んで飛ばす感覚が強く、多くの選手にとっての基準となる高性能ラバーです。
- ディグニクス09C: 粘着性ラバーの特性を持ち、スピン性能とグリップ感が最高レベルです。台上技術やカウンタードライブで強烈な回転をかけるプレーに適していますが、スピードはザイア03に劣ります。
結論として、「ザイア03」はディグニクスシリーズの延長線上にあるのではなく、スピードという一点を極限まで追求した、全く新しいコンセプトのラバーであると言えます。
結論:ザイア03は誰のためのラバーか?
「ザイア03」の硬度44度という数値は、あくまで一つの指標に過ぎません。その本質は、薄いシートと極厚の硬いスポンジという特異な構造から生まれる、「超高速・直線弾道・軽量・薄い打球感」という唯一無二の性能にあります。
このラバーの性能を最大限に引き出せるのは、以下のような選手でしょう。
身体のキレ、スピードに自信のある両ハンドドライブ型の上級者が本筋ですかね。…球は凄いんですけど、スピードボールで連打して押し込んでいく卓球向けだと感じます。
具体的には、パワーでねじ伏せるのではなく、速い打点とコンパクトで鋭いスイング(身体のキレ)でピッチの速いラリーを展開する選手です。そのプレースタイルは、使用者として名前が挙がる戸上隼輔選手のイメージとまさに合致します。逆に、ボールを深く食い込ませて回転量の多いループドライブで勝負する選手には、その良さを引き出しにくいかもしれません。
「ザイア03」は、これまでのラバーの常識が通用しない、挑戦的な一枚です。その硬さと性能を理解し、自分のスイングをアジャストできたとき、誰も経験したことのないスピードという強力な武器を手にすることができるでしょう。





