はじめに:卓球界を席巻する新ラバー「ザイア03」
2025年秋、卓球用品メーカーの株式会社タマス(バタフライ)から発売された新作ラバー「ザイア03(ZYRE-03)」が、世界のトップシーンで急速に存在感を増しています。テナジー、ディグニクスと、常に時代の最先端を走り続けてきたバタフライが送り出したこのラバーは、その独特な性能から「新時代のスタンダードになる」との呼び声も高く、多くのトップ選手が実戦投入を開始しました。本記事では、「ザイア03」を使用する主要選手をリストアップするとともに、その革新的な性能やプレースタイルとの相性を深く掘り下げ、なぜ今、このラバーが選ばれるのかを分析します。
なぜトップ選手は「ザイア03」を選ぶのか?性能徹底分析
「ザイア03」の魅力は、これまでのラバーとは一線を画す設計思想にあります。その核心は、ボールを掴むメカニズムの再定義であり、トップ選手が求める「より速く、より回転量の多いボール」を実現するための革新的な技術が投入されています。
革新的技術「リコシート」と極厚スポンジの融合
「ザイア03」の最大の特徴は、「リコシート(RECOSHEET)」と呼ばれる新開発のシート技術です。これは、従来のラバーよりも極端に低いツブを、ルール限界まで高密度に配置したものです。この設計により、ボールとの接触面積が増え、かつてないほどの高いグリップ力を発揮します。バタフライ公式サイトによると、この開発コードNo.303のツブ形状が、強烈な回転を生み出す鍵となっています。
さらに、シートを薄くした分、スポンジをルール上限に迫る厚さ(2.5mmまたは2.7mm)に設定。この極厚スポンジがボールのエネルギーロスを最小限に抑え、打球の威力を最大化します。また、シート表面の強度は『ディグニクス05』と比較して約40%向上しており、台にぶつけた際の耐久性が高まっている点もプロ選手にとっては見逃せないポイントです。
圧倒的なスピン性能:ディグニクスシリーズとの比較
「ザイア03」の性能を客観的に見るため、バタフライが公表している性能指標をディグニクスシリーズと比較してみましょう。「ザイア03」のスピン値は「100」と、従来のラバーの指標を振り切るほどの圧倒的な数値を記録しています。これは、粘着ラバーである『ディグニクス09C』の「96」をも上回るものです。
衝撃的な大幅進化、再び。未だかつてないスピン性能を。『ディグニクス05』から『ザイア03』へのスピン性能向上は、かつて『テナジー 05』が『ブライス スピード』を超えて登場したときと同等レベル。ラバーの歴史に新たな転換点を刻む、圧倒的スピンの進化です。
以下のレーダーチャートは、「ザイア03」とディグニクスシリーズの主要製品の性能値を比較したものです。「ザイア03」が特にスピンと弧線の高さで突出しており、スピードも高いレベルで維持していることが一目瞭然です。
硬いが軽量?独特の重量バランス
「ザイア03」はスポンジ硬度44度と、ディグニクスシリーズ(40度)よりも硬めのスポンジを採用しています。一般的に硬いラバーは重くなる傾向がありますが、「ザイア03」は薄いシート(比重が大きい)と厚いスポンジ(比重が小さい)の組み合わせにより、ラバー全体の重量が比較的軽く抑えられています。バタフライの公表情報では、『ディグニクス09C』よりも約2g軽いとされており、ラケットの総重量を気にすることなく、スイングスピードを維持しやすいという利点があります。あるレビューでは、カット後の重量が48g程度と報告されており、これは硬めのラバーとしては軽量な部類に入ります。
「ザイア03」を使用する世界のトップ選手たち
その革新的な性能から、「ザイア03」は発売前から多くのトップ選手によってテストされ、実戦投入が相次いでいます。インナーフォース、アウターカーボンといったラケットの種類を問わず、またフォア面・バック面の両方で採用例が見られるのが特徴です。
国内の主要使用選手
日本のトップ選手の間でも「ザイア03」への移行が進んでいます。
- 戸上隼輔選手: いち早く両面に使用。自身のプレースタイルである前陣での超高速ラリーをさらに高いレベルに引き上げています。ラケットはアウターカーボンの『樊振東ALC』を組み合わせています。
- 張本智和選手: バック面に使用。得意のバックハンドカウンターやチキータの威力をさらに高める目的があると見られます。ラケットは『張本智和インナーフォース Super ALC』です。
- 張本美和選手: フォア面に使用。女子選手でもその性能を引き出せることを証明しています。
- 宇田幸矢選手: バック面に使用。左腕から繰り出される攻撃的なバックハンドを支えています。
- その他: 吉村真晴選手、松島輝空選手といった実力者に加え、川上流星選手や岩井田駿斗選手など、将来を期待される若手選手も使用を開始しています。
海外の主要使用選手
海外でもトップランカーたちが続々と「ザイア03」を手にしています。
- 林昀儒(リン・ユンジュ)選手(台湾): バック面に使用。繊細なボールタッチと鋭いカウンターが持ち味の同選手にとって、ラバーの性能は大きな武器となっています。ラケットは『林昀儒 Super ZLC』です。
- パトリック・フランチスカ選手(ドイツ): 両面に使用。パワーとテクニックを兼ね備えたヨーロッパのトップ選手も、このラバーのポテンシャルを高く評価しています。
- アドリアーナ・ディアス選手(プエルトリコ): プエルトリコのスター選手も使用しており、男女問わずトップレベルで受け入れられていることがわかります。
プレースタイル別「ザイア03」との相性考察
これほど多くのトップ選手が採用する背景には、「ザイア03」が現代卓球のトレンドに合致した性能を持つことがあります。しかし、その性能は非常にピーキー(先鋭的)であり、誰にでも合うわけではありません。
スピード重視の両ハンドドライブ型:戸上隼輔の選択
「ザイア03」が最も輝くのは、前〜中陣で打球点の早い、スピード重視の連続攻撃を得意とする選手です。ある詳細なレビューブログでは、「対上回転のドライブはもう最強でいい」「直線的なドライブが、かなりの速度と回転量で飛んでいき、台についてからもめちゃくちゃ伸びる」と絶賛されています。
戸上隼輔選手がこのラバーを両面に採用しているのは、まさに彼のプレースタイルとラバーの特性が完璧に合致しているからでしょう。速いピッチのラリーの中で、相手を圧倒するスピードと決定力を生み出します。
前陣でのカウンター主戦型:張本智和・林昀儒の選択
バックハンドでのカウンターや、攻撃的なレシーブであるチキータを多用する選手にも「ザイア03」は強力な武器となります。レビューでは「チキータがめちゃめちゃやりやすくなりました!弱い力でもボールを擦れる」と評価されており、少ない助走からでも質の高いボールを繰り出せるメリットがあります。 張本智和選手や林昀儒選手がバック面に採用しているのは、相手の強打を利用したカウンターの精度と威力を向上させる狙いがあると考えられます。
使いこなしの難しさ:上級者向けと言われる理由
一方で、「ザイア03」は非常に高い技術レベルを要求するラバーでもあります。その理由は、独特の打球感と性能にあります。
『ザイア03』を試打した第一印象は、ボールが恐ろしく上に飛んでいくという感覚。「これを本当に制御できるんだろうか?」と非常に不安になりました。
打球感が薄く、ボールを「掴む」感覚が従来のラバーと異なるため、中途半端なスイングでは性能を発揮できません。常に速いスイングスピードでボールを擦り、回転をかけて飛ばす意識が不可欠です。パワーヒッターが力任せに食い込ませようとすると、逆にボールが落ちるという現象も報告されています。このラバーを使いこなすには、パワー以上に「身体のキレ」と「繊細なボールタッチ」が求められるため、多くのレビューで「上級者向け」と結論付けられています。
まとめ:「ザイア03」が示す卓球の未来
「ザイア03」は、単なる高性能ラバーではなく、卓球の技術や戦術に新たな方向性を示す存在と言えるでしょう。その圧倒的なスピン性能とスピードは、前陣での高速ラリーを主体とする現代卓球のトレンドをさらに加速させる可能性を秘めています。
戸上隼輔、張本智和、林昀儒といった世界のトップ選手たちがこぞって採用している事実は、このラバーが持つポテンシャルの高さを何よりも雄弁に物語っています。ただし、その性能を最大限に引き出すには相応の技術とフィジカルが要求されるため、アマチュア選手が安易に手を出すべきではない、という側面も持ち合わせています。
今後、さらに多くの選手が「ザイア03」を手にし、新たなプレースタイルを確立していくことは間違いありません。このラバーが卓球界にどのような変革をもたらすのか、トップ選手たちのプレーから目が離せません。





