二面性を秘めたXIOMの意欲作「ジキル&ハイド」
韓国の卓球メーカーXIOM(エクシオン)が2022年に発表した「ジキル&ハイド」シリーズは、その名の通り「パワーと正確性」といった相反する性能の共存を目指した意欲的なラバーシリーズです。このシリーズは、選手のプレースタイルや好みに合わせて細かく選択できるよう、複数のタイプがラインナップされています。
シリーズは主に5つのカテゴリーに分類されます。
- H (Hybrid): 粘着性トップシートとテンションスポンジを組み合わせたハイブリッドタイプ。
- V (Drag): ボールを掴む力(摩擦力)を重視し、最大のスピンを生み出すタイプ。
- X (Power): 強烈な弾力(カタパルト効果)による超攻撃的なドライブを追求するタイプ。
- Z (Custom): トップ選手向けの特注仕様を市販化したハイエンドモデル。
- C (Sticky): 扱いやすさを高めた新世代の中国式粘着ラバー。
これらのラバーは、XIOMの最新技術「ELASTO FUTURA」によって支えられています。これは、グリップ力に富んだ「DYNAMIC FRICTION」、強い弧線を描く「CYCLOID」、そして反発力を高めるカーボン粒子を含んだ「CARBOSPONGE」という3つの技術を融合させたものです。本記事では、この中でも特にボールを掴む力に優れた「V」シリーズの2つのラバー、「ジキル&ハイド V52.5」と「ジキル&ハイド V47.5」に焦点を当て、その性能を徹底的に比較・分析します。
「V」シリーズのコンセプト:強烈な摩擦力
「ジキル&ハイド」シリーズにおける「V」は、“Power Dragging on the ball to make Maximum Spin”(ボールをパワフルに引きずり、最大のスピンを生み出す)というコンセプトを体現しています。これは、トップシートがボールをしっかりと掴み、強烈な摩擦力によって回転量の多いボールを生み出すことを目的として設計されていることを意味します。単に弾むだけでなく、ボールを掴んでから放つという感覚を重視するプレイヤーにとって、非常に魅力的な選択肢となります。
このシリーズは、スポンジ硬度の違いによって2つのモデルが用意されており、プレイヤーは自身のパワーや好みの打球感に応じて選択することが可能です。
- V47.5: 47.5度のスポンジを採用し、スピードとコントロールのバランスを重視。
- V52.5: 52.5度の硬いスポンジを採用し、より高い威力を求めるハードヒッター向け。
パフォーマンス比較:ジキル&ハイド V52.5 vs V47.5
V52.5とV47.5は、同じ「V」のコンセプトを共有しつつも、スポンジ硬度の違いによって明確な性能差が存在します。ここでは、複数のレビューサイトの評価を基に、両者のパフォーマンスを比較します。
スピードとパワー
スピード性能では、両者ともにOFF++クラスに分類される高速ラバーですが、その特性は異なります。V52.5は硬いスポンジを搭載しているため、強打時にスポンジがボールのエネルギーを最大限に反発力へと変換し、より高いボールスピードと威力を生み出します。特に、ハードヒッターがフルスイングした際の破壊力はV47.5を上回ります。
一方、V47.5はV52.5よりはスポンジが食い込みやすいため、比較的軽いインパクトでもスピードを出しやすい特徴があります。あるレビューでは、V47.5の方がV52.5よりもスピードが出やすいと感じるという意見もあり、プレイヤーの打法やインパクトの強さによって体感速度は変わるようです。
スピンと弧線
スピン性能は「V」シリーズの核となる部分です。両ラバーとも非常に高いスピン性能を持ちますが、その質には違いが見られます。V52.5は硬いシートとスポンジでボールを薄く捉えることで、強烈な回転を生み出すことができます。カウンタードライブなど、相手のボールの威力を利用する場面で特にその真価を発揮します。弧線は中~高弾道で、安定したループドライブが可能です。
対照的にV47.5は、V52.5よりも低い弧線を描く傾向があります。これにより、鋭く、相手コートで沈むような質のボールを打つことが可能です。ただし、最大の回転量を生み出すには、トップシートの摩擦力だけでなく、スポンジにしっかりと食い込ませるインパクトが必要とされています。
コントロールと打球感
コントロール性能と打球感は、両者の最も大きな違いの一つです。V47.5は、多くのレビューでスピンの影響を受けにくい(スピン非感受性)と評価されており、特にブロックが非常にやりやすいという特徴があります。相手の強回転ドライブに対しても、ラバーが過剰に反応しないため、安定した返球が可能です。打球感は47.5度という数値以上に硬く感じるという意見が多く見られます。
V52.5は、その硬さから非常にソリッドな打球感を持っています。ボールを掴む感覚は強いものの、使いこなすには相応の技術とパワーが求められます。あるレビューでは、強く打った際には予想よりも柔らかく感じるという評価もありますが、基本的には上級者向けのハードなラバーと位置づけられます。
詳細レビュー:ジキル&ハイド V47.5
ジキル&ハイド V47.5は、その独特な性能から多くのプレイヤーの間で議論を呼んでいるラバーです。「二面性」というコンセプトを色濃く反映しており、多くの長所を持つ一方で、明確な弱点も指摘されています。
「支配的な攻撃プレーやダイレクトな打球において、このラバーは絶対的に素晴らしい。これほど正確に誘導でき、かつ腕の動きに応じてダイナミクスを制御できる高速ラバーはほとんどないだろう。」
長所:ダイレクトな攻撃力とスピン非感受性
V47.5の最大の強みは、ダイレクトで直線的な攻撃力にあります。特に、前〜中陣でのスマッシュやアクティブブロックにおいて、その性能は際立ちます。スピンの影響を受けにくいため、相手の回転を気にせず、フラット系のボールで鋭くカウンターすることが可能です。多くのレビュワーがバックハンドでの使用を推奨しており、その低い弾道とスピードは相手にとって大きな脅威となります。
また、耐久性に関しても、あるユーザーからはという高評価も得ています(ただし、消耗が早いという逆の意見も存在します)。
短所:潜在能力を引き出すための条件
一方で、V47.5はそのポテンシャルを最大限に引き出すために、プレイヤーにいくつかの条件を要求します。多くのレビューで共通して指摘されているのは、「自分の力でインパクトする必要がある」という点です。中途半端なスイングでは、ボールがネットにかかったり、威力のないボールになったりする傾向があります。特にパッシブなブロックではボールが失速しがちです。
また、スピン生成に関しても、トップシートで薄く擦るだけでは十分な回転量を得られず、スポンジに食い込ませるインパクトが必要です。このため、サーブで強烈なスピンをかけたいプレイヤーや、回転重視のループドライブを主体とするプレイヤーには、物足りなさを感じる可能性があります。
詳細レビュー:ジキル&ハイド V52.5
ジキル&ハイド V52.5は、V47.5の性能をさらにハードヒッター向けに先鋭化させたモデルです。52.5度という硬いスポンジがもたらす圧倒的な威力が最大の特徴です。
「素晴らしいフォアハンドラバー。非常に速く、正確で、攻撃的。他の多くのハイブリッドラバーと比較しても、これは際立っている。」
長所:ハードヒッターに応える威力と回転量
V52.5の魅力は、なんといってもそのパワーです。硬いスポンジは強打時のエネルギーロスを最小限に抑え、ボールを高速で射出します。V47.5では物足りなさを感じるパワーヒッターにとって、このラバーは理想的な選択肢となり得ます。日本のレビューサイトでは、「強打の際にスポンジが弾みとスピードをアシストしながら、シートで強い弧線や回転を生み出してくれる」と評価されています。
回転性能も非常に高く、特にカウンタードライブでは相手のボールの勢いを利用して、さらに質の高いボールを返すことが可能です。あるレビュワーはとコメントしており、そのスピンポテンシャルの高さが伺えます。
短所:使用者を選ぶ硬さと重量
V52.5の最大の課題は、その硬さと重量です。52.5度というスポンジ硬度は、多くのプレイヤーにとって非常に硬く感じられるでしょう。この硬さを乗りこなし、性能を引き出すためには、相当なスイングスピードと正確なインパクトが不可欠です。インパクトが弱いと、ボールを十分に飛ばすことができず、性能を発揮できません。
また、重量もV47.5より重くなる傾向があり、ラケットの総重量やバランスに影響を与えます。カット前の重量が73gを超えるという報告もあり、軽量なラケットを好むプレイヤーや、スイングの振り抜きを重視するプレイヤーには不向きかもしれません。
どちらを選ぶべきか?プレースタイル別推奨ガイド
これまでの分析を踏まえ、どのようなプレイヤーにどちらのラバーが適しているかをまとめます。
ジキル&ハイド V47.5 がおすすめのプレイヤー
- バックハンド主戦の攻撃型選手: 低い弾道とスピードを活かした、鋭いバックハンド攻撃を得意とする選手に最適です。
- 前陣でのカウンターやブロックを多用する選手: スピンの影響を受けにくい特性が、安定したカウンタープレーを可能にします。
- フラット系の打法を多用する選手: スマッシュやミート打ちで威力を発揮します。
- 中級者から上級者: ある程度のインパクト力は必要ですが、V52.5よりは幅広い層のプレイヤーが扱えます。
ジキル&ハイド V52.5 がおすすめのプレイヤー
- フォアハンドで威力を求めるハードヒッター: 自身のパワーを最大限にボールに伝えたい上級者に最適です。
- V47.5では物足りないと感じる選手: より高いスピードとパワーを求めるなら、ステップアップとしてV52.5が選択肢になります。
- インパクトの強弱を自分で調節できる選手: 擦るドライブと食い込ませるドライブを使い分け、多彩な攻撃を仕掛けたい選手。
- 重量のあるラバーを苦にしない選手: ラケット総重量が増えることを許容できるパワープレイヤー向けです。
結論:相反する性能の共存を目指したXIOMの挑戦
XIOMの「ジキル&ハイド V」シリーズは、「ボールを掴む力」という共通のコンセプトを持ちながら、V47.5とV52.5という異なる個性を持つ2つのラバーを提供しています。
V47.5は、ダイレクトな攻撃力と安定したブロック性能を両立させた、特にバックハンドに適したユニークなラバーです。その性能を最大限に引き出すにはプレイヤー側の工夫が必要ですが、使いこなせば強力な武器となります。
V52.5は、パワーとスピンを極限まで追求した、まさにハードヒッターのための決戦兵器です。その硬さゆえに使用者を選びますが、条件が合致したときには、他の追随を許さない圧倒的なパフォーマンスを発揮します。
どちらのラバーも、「ジキルとハイド」の名が示すように、長所と短所が明確な二面性を持っています。自分のプレースタイル、パワー、そして何をラバーに求めるのかを深く見つめ直すことで、最適なパートナーを見つけることができるでしょう。XIOMのこの意欲的な挑戦は、用具選びの新たな楽しみをプレイヤーに提供してくれています。




