XIOM ジキル&ハイド H52.5 完全レビュー:二面性が生み出す異次元の性能


ジキル&ハイド H52.5とは?相反する性能の融合

XIOM(エクシオン)が2022年に市場に投入した「ジキル&ハイド」シリーズは、その名の通り、相反する二つの個性を一つのラバーに共存させるという野心的なコンセプトから生まれました。シリーズの中でも特に注目を集めるのが、『ジキル&ハイド H52.5』です。

このラバーは、中国ラバーのような粘着性トップシートと、ヨーロピアンテンションラバーの心臓部である高反発な「カーボスポンジ」を組み合わせた「ハイブリッドラバー」に分類されます。XIOMのフィリップ・キムCEOは、これを「Hタッチ」と呼び、中国ラバーとテンションラバーの長所を融合させた新たな打球感だと説明しています。

「パワーと正確性は相反し、コントロールは難しい。だが、我々はそれぞれのパフォーマンスを最大限に引き出し、両立させることに成功した。」

スポンジ硬度52.5度というハードな仕様でありながら、ボールを掴む感覚と爆発的な威力を両立。これにより、繊細な台上プレーから一撃で打ち抜くパワードライブまで、まさに「ジキル博士とハイド氏」のような二面性のあるプレーを可能にすることを目指しています。

主要スペックと搭載テクノロジー

スペック一覧

『ジキル&ハイド H52.5』の基本スペックは以下の通りです。硬度52.5度はプロ仕様のラバーに匹敵する数値ですが、幅広いプレイヤーから支持を得ています。

項目 内容
製品名 ジキル&ハイド H52.5 (Jekyll & Hyde H52.5)
メーカー XIOM (エクシオン)
ラバーの種類 裏ソフトラバー (ハイブリッド・微粘着テンション)
スポンジ硬度 52.5度 (ドイツ基準)
スポンジ厚 1.9mm, 2.1mm, MAX
カラー レッド、ブラック
定価 8,470円 (税込) ※2025年12月時点
発売日 2022年5月 (1.9mm厚は2024年3月追加発売)

XIOMの先進技術:「ELASTO FUTURA」

このラバーには、XIOMのラバー開発技術の粋を集めた統合テクノロジー「ELASTO FUTURA」が採用されています。これは、以下の3つの技術で構成されています。

  • CYCLOID (サイクロイド): 弧線形成を最適化する技術。ボールの軌道を高く安定させ、ネットミスを軽減します。
  • DYNAMIC FRICTION (ダイナミックフリクション): 雪道用タイヤの技術に着想を得た表面加工技術。インパクトが不完全でも強いグリップ力を発揮し、ボールをしっかり掴みます。
  • CARBOSPONGE (カーボスポンジ): エネルギー伝達効率を高めた黒いスポンジ。ボールに爆発的な威力を与えます。

これらの技術の融合により、『ジキル&ハイド H52.5』は「掴む感覚」と「威力」という相反する要素を高いレベルで両立させています。Rallysの記事でも、この技術がラバーのグリップ力、弾み、操作性を向上させていると解説されています。

構造的特徴:粘着性シートと高硬度スポンジ

『ジキル&ハイド H52.5』の核心は、その独特な構造にあります。トップシートは従来の中国製粘着ラバーに近い構造(厚いシートベースと低くて密度の高い粒)をしています。これにより、ボールを薄く擦った際にも強烈な回転を生み出すことが可能です。表面は微粘着性で、見た目だけでは粘着ラバーとは判別しにくいものの、触れるとわずかな粘着性が感じられます。

一方、スポンジは気泡の大きいブラックカーボスポンジで、非常に硬く、強いインパクトに対してもしっかりと応え、ボールを力強く弾き出します。この粘着性シートと高弾性スポンジの組み合わせこそが、ハイブリッドラバーたる所以です。

性能レビュー:実打から見る5つの特徴

『ジキル&ハイド H52.5』の性能を、多くのユーザーレビューや試打レポートを基に5つのポイントで分析します。

1. 圧倒的なスピン性能と独特な「癖球」

このラバーの最大の武器は、その圧倒的なスピン性能です。微粘着シートがボールをしっかりと掴むため、サーブやループドライブで強烈な回転をかけることができます。ある上級者ユーザーは「09C(ディグニクス09C)よりボールが荒れる。かかっていたり、かかっていなかったりの差が大きく相手が取りづらい」と評価しており、回転量の変化で相手を惑わす「癖球」が出やすい点も大きな特徴です。

2. 粘着系らしからぬスピード性能

粘着ラバーはスピードが出にくいという常識を覆すのが、H52.5のもう一つの顔です。硬質なカーボスポンジが生み出す強い弾性により、テンションラバーに迫るスピードを発揮します。あるレビューでは「粘着テンションラバーといいながら、ここまでスピード性能の高いラバーは面白い」と驚きの声が上がっています。特に、しっかりとインパクトして振り抜いた時のスピードドライブは、相手コート深くに鋭く突き刺さります。

3. 前陣で輝く台上技術とカウンター

粘着シートの恩恵は、台上技術で特に顕著に現れます。試打レビューでは、「ストップとか軽く触るだけでも低く切れていってくれる」と評価されており、短く、回転量の多いストップが非常にやりやすいです。また、球離れが速いため、相手のボールを利用した前陣でのカウンターも得意。軽い力でも鋭いボールを打ち返すことが可能です。

4. 高い弧線による対下回転の安定感

CYCLOIDテクノロジーにより、H52.5は非常に高い弧線を描きます。これにより、相手の低いツッツキなど、下回転のボールを持ち上げやすいのが大きな利点です。「ループはかなり高く出してもオーバーせずに入る」という声もあり、ネットミスを恐れずに思い切ってスイングできる安心感があります。このため、インパクトに自信がない中級者でも、安定して下回転を攻略できる可能性があります。

5. プレイヤーを選ぶコントロール性能

一方で、H52.5は万能ではありません。特に中陣〜後陣でのラリーにおいて、そのコントロールは使用者を選びます。球離れが速いため、十分なパワーとスイングスピードがないとボールが浅くなったり、コントロールを失ってオーバーミスしたりする傾向があります。ある試打では「離れたところからドライブってなると球離れが少し速くてコントロールが難しい」と指摘されており、前陣での速攻プレースタイルに最も適していると言えるでしょう。

他の人気ラバーとの比較

『ジキル&ハイド H52.5』の立ち位置をより明確にするため、競合となる人気ラバーと比較します。

vs. ディグニクス09C

同じ粘着性テンションラバーの頂点に君臨するバタフライ社の『ディグニクス09C』との比較は多くのプレイヤーが関心を持つ点です。

  • ボールの質: H52.5は回転量の変化が大きく、相手が嫌がる「荒れ球」が出やすいです。一方、09Cはより安定して高品質な回転を生み出します。
  • 扱いやすさ: H52.5の方が弧線が高く、ボールを持ち上げやすいと感じるユーザーが多いです。09Cはよりシビアなインパクトと角度調整が求められます。
  • スピード: スピード性能では、スポンジの反発力が強いH52.5が若干優位に立つ場面もありますが、最大値では09Cが上回るという意見もあります。

あるレビューでは、「ジキルアンドハイド52.5は09cより、相手に嫌がられる部分がありメインラバーに変更しても良いのではないかと思わせてくれる」と、その独特な性能を高く評価しています。

vs. オメガVII チャイナ影

同じXIOMの粘着テンション『オメガVII チャイナ影』と比較すると、その違いは明確です。『チャイナ影』はより中国ラバーに近い打球感で、スポンジが非常に硬く、球持ちが良いのが特徴です。

  • スピード: H52.5が圧倒的に優れています。あるユーザーは「オメガVIIチャイナ影よりもスピードが抜群に出る!目が覚める速さ」とコメントしており、弾みの違いは明らかです。
  • 打球感: H52.5はテンションラバー寄りの爽快な打球感があるのに対し、『チャイナ影』はボールを掴んでから飛ばす、より粘着ラバーらしい重厚な打球感です。

スピードを重視しつつ粘着の回転量が欲しいならH52.5、より粘着ラバーらしい癖球と球持ちを求めるなら『チャイナ影』が選択肢となるでしょう。

おすすめのプレイヤー層とラケットの組み合わせ

こんなプレイヤーにおすすめ

これまでの分析から、『ジキル&ハイド H52.5』は以下のようなプレイヤーに特におすすめできます。

  • 前陣〜中陣でプレーする攻撃型選手: 球離れの速さとカウンター性能を最大限に活かせます。
  • テンションラバーに回転量をプラスしたい選手: 普段テンションラバーを使用していて、サーブやループドライブの回転量に物足りなさを感じている場合に最適です。
  • パワーヒッター: 硬いスポンジを活かしきるだけのインパクトがあれば、後陣からでも威力のあるボールを放つことが可能です。
  • 癖球で相手を翻弄したい選手: 独特の弾道と回転量の変化で、トリッキーなプレーを展開できます。

逆に、安定性を最優先するプレイヤーや、後陣での引き合いを主体とする選手には、コントロールが難しく感じられるかもしれません。

推奨ラケットの傾向

H52.5は硬いラバーのため、ラケットの組み合わせが非常に重要になります。レビューでは以下のような傾向が見られます。

  • 球持ちの良いインナーファイバー系: ラバー自体が硬く球離れが速いため、インナー配置の特殊素材ラケットと組み合わせることで、球持ちが向上し、コントロールしやすくなります。(例:ビスカリア、樊振東ALC)
  • しなりのある木材合板: 7枚合板など、ラケット自体がしなることで弧線を描きやすくなり、ラバーの性能を引き出しやすくなります。
  • アウターファイバー系(上級者向け): 十分な技術とパワーがあるプレイヤーであれば、アウター特殊素材ラケットと組み合わせて、スピードを極限まで高めることも可能です。

あるレビューでは、「インナーか7枚合板あたりの球持ちが良く弧線が出るラケットに合わせて、面をぶつけるような打ち方が良い」と具体的なアドバイスがされています。

総評:ジキル&ハイド H52.5は誰のためのラバーか?

『XIOM ジキル&ハイド H52.5』は、「粘着の回転」と「テンションのスピード」という二律背反を、XIOMの技術力で高次元に融合させた野心作です。その性能はまさに二面性を持ち、使い手によって評価が大きく分かれるラバーと言えるでしょう。

前陣での鋭い台上プレーやカウンター、そして強烈な回転量のドライブは、一度ハマれば相手にとってこの上ない脅威となります。特に、テンションラバーのスピード感に慣れ親しみつつ、さらなる回転と癖球を求める攻撃的なプレイヤーにとって、このラバーは唯一無二の武器となり得ます。

硬度52.5度というスペックに臆する必要はありません。むしろ、その硬さこそが、相手の強打に打ち負けないブロックと、一撃必殺の威力を生み出す源泉です。

ただし、そのポテンシャルを最大限に引き出すには、相応のスイングスピードと正確なインパクトが求められます。このラバーは、使い手が持つ「 Jekyll(理性的なコントロール)」と「Hyde(破壊的なパワー)」の両方を引き出し、試す存在なのかもしれません。自分のプレースタイルと照らし合わせ、この刺激的な二面性に挑戦する価値があるかどうか、見極めることが重要です。