バタフライ フェイントAG 完全ガイド:攻撃型粒高の革命児、その性能と終焉


現代卓球において、粒高ラバーの役割は単なる守備や変化の創出に留まりません。自ら積極的に攻撃を仕掛け、得点を奪うアグレッシブなプレースタイルが主流となる中、その需要に応えるべく登場したのがバタフライの「フェイントAG」です。ハイテンション技術を搭載し、「攻撃する粒高」という新たなジャンルを切り拓いたこのラバーは、多くの前陣攻守型プレイヤーに新たな可能性を示しました。しかし、その革新的な歴史も一つの区切りを迎えようとしています。本記事では、フェイントAGの性能、特徴、そして2025年の廃盤に至るまでの軌跡を、データとレビューを交えて徹底的に解説します。

フェイントAGとは? 攻撃型粒高という新境地

「フェイントAG」は、卓球用品のリーディングカンパニーである株式会社タマス(ブランド名:バタフライ)が開発した、ハイテンション技術搭載の粒高ラバーです。バタフライのカタログでは「攻撃選手用のハイテンション ツブ高ラバー」と銘打たれ、そのコンセプトは明確です。従来の粒高ラバーが持つ「相手の回転を利用した変化」や「守備的なブロック」といった特性に加え、自らスピードとパワーを生み出し、打球の威力で得点するアグレッシブなプレーを可能にすることを目指して設計されました。

現代卓球ではツブ高ラバーでも攻撃を仕掛けることが重要です。『フェイントAG』は「ハイテンション技術」により攻撃力を追求しました。

このラバーの登場は、守備的なイメージが強かった粒高のプレースタイルに一石を投じました。プッシュやブロックで粘るだけでなく、相手のドライブに対してカウンタードライブを放ったり、表ソフトラバーのようにスマッシュを打ち込んだりと、多彩な攻撃戦術を可能にしたのです。これにより、フェイントAGは「変化で崩し、攻撃で決める」という、新しい戦型の前陣攻守型プレイヤーにとって、強力な武器となりました。

性能を徹底解剖:スペックと技術的特徴

フェイントAGの独自性は、そのスペックと搭載された技術に集約されています。ここでは公式データと技術的な側面から、その性能を深く掘り下げます。

公式スペックと性能チャート

バタフライが公表している基本スペックは以下の通りです。

  • スピード: 7.0 (スレイバーを10とした値)
  • スピン: 4.0 (タキネス・CHOPを10とした値)
  • スポンジ硬度: 28度

これらの数値から、粒高ラバーとしてはスピード性能が高く、スポンジが非常に柔らかいことが分かります。一方で、スピン性能は抑えめであり、これは自ら回転をかけるよりもスピードとナックルで勝負する特性を示唆しています。

さらに、バタフライは各プレーにおける性能をチャートで示しています。フェイントAGは「プッシュ」と「ブロック」で高い評価を得ており、攻撃的な前陣プレーへの適性がうかがえます。対照的に「変化」の評価は低く、従来の幻惑させるタイプの粒高とは一線を画すことが明確です。

革新技術:ハイテンションと28度のソフトスポンジ

フェイントAGの攻撃力を支える核心技術は、「ハイテンション技術」「28度の柔らかいスポンジ」の組み合わせにあります。

  • ハイテンション技術:ゴム分子にテンション(張り)を与えることで、エネルギーロスを抑え、高い反発力を生み出すバタフライ独自の技術です。これにより、粒高ラバーでありながら、ボールにスピードと飛距離を与えることが可能になりました。
  • 28度のソフトスポンジ:非常に柔らかいスポンジは、ボールがラバーに深く食い込むことを可能にします。これにより、強いインパクト時にはボールを掴んで飛ばす感覚が生まれ、ドライブのような攻撃的な打法がやりやすくなります。一方で、詳細なレビューによれば、弱いインパクトではボールの勢いを吸収し、減速させることができるため、長短のコントロールがしやすいという二面性も持ち合わせています。

この「柔らかく食い込ませて飛ばす」という特性が、フェイントAGを「粒高と表ソフトの中間的な打球感」と評される所以であり、攻撃的なプレーを可能にする最大の要因と言えるでしょう。

ユーザーレビューから見る「光と影」

革新的なコンセプトを持つフェイントAGは、ユーザーからどのような評価を受けてきたのでしょうか。ここでは、多くのレビューサイトから見えてくる「光」(長所)と「影」(短所)を分析します。

【光】評価される攻撃性能と操作性

多くのユーザーが絶賛するのは、やはりその攻撃性能です。あるレビューでは、「粒高の打球感なのに表ソフトのようにドライブをかける事が出来る」と評されており、従来の粒高の枠を超えた攻撃力を高く評価しています。具体的には、以下のような点が挙げられます。

  • 攻撃のしやすさ:プッシュやスマッシュが速く、ナックル性のボールで相手のタイミングを崩しやすい。チャンスボールを確実に得点に繋げられます。
  • 回転の自己生成:相手の回転に依存するだけでなく、自ら回転をかけてチキータやループドライブのような技術も可能。これによりプレーの幅が大きく広がります。
  • 高いコントロール性能:攻撃的ながらも、柔らかいスポンジのおかげでボールの長短をつけやすく、ストップなどの台上技術も比較的容易であるという声が多く見られます。

スピードとコントロールに高い評価が与えられており、攻撃力と扱いやすさを両立していることがわかります。

【影】犠牲になった変化性能

一方で、フェイントAGが「万人受けするラバーではない」と言われる理由も存在します。それは、攻撃力を追求した代償として、従来の粒高ラバーが最も得意としてきた「変化性能」が犠牲になっている点です。

  • 変化の少なさ:海外のレビューでは「Deception is poor (幻惑性が低い)」「Reversal is also very light or none (スピン反転が非常に少ないか、全くない)」と指摘されています。相手の強烈なスピンを反転させて返す、といったプレーは期待できません。
  • 回転の影響の受けやすさ:シートのグリップ力が比較的高いため、粒高ラバーとしては相手の回転の影響を受けやすいという特徴があります。これにより、レシーブなどで繊細なコントロールが求められる場面もあります。
  • カットプレーへの不適合:攻撃性能に特化しているため、台から距離をとって回転をかけるカット主戦型のプレースタイルには向いていません。カットの切れ味や安定性は、同社の「フェイント・ロング」シリーズなどに軍配が上がります。

これらの特性から、フェイントAGは「粒高の変化で勝ちたい」プレイヤーではなく、「粒高を使いながらも、攻撃的に得点したい」という明確な意志を持つプレイヤー向けの、専門性の高いラバーであると言えます。

ライバルラバーとの比較:フェイントAGの独自性

フェイントAGの立ち位置をより明確にするため、他の人気粒高ラバーと比較してみましょう。

  • フェイント・ロングIII (バタフライ): 変化と安定性を重視したバタフライの定番粒高。カットの切れ味やブロックの安定性に優れますが、AGほどの攻撃力はありません。守備的なプレーを主体とする選手向けです。
  • カールP-1V (VICTAS): 「変化系粒高の代名詞」とも言えるラバー。粒が倒れやすく、予測不能な変化を生み出すことに特化しています。攻撃力よりも、相手を幻惑させることを最優先するプレイヤーに選ばれます。
  • グラスD.TecS (TIBHAR): フェイントAGと同じくテンションを搭載した粒高ですが、特性は異なります。グラスD.TecSはスピン反転能力が非常に高く、相手のドライブを当てるだけで強烈な下回転にして返す「オートマチックな変化」が特徴です。一方、AGは自ら攻撃を作り出す能力に長けています。

このように比較すると、フェイントAGは「攻撃性能」の軸で突出しており、他のどの粒高とも異なる独自のポジションを確立していたことがわかります。それは、変化に頼るのではなく、自らの技術で攻撃を組み立てる新しいタイプの粒高プレイヤーに最適な選択肢でした。

ひとつの時代の終わり:2025年、廃盤へ

多くのプレイヤーに新たな戦術をもたらしたフェイントAGですが、その歴史に幕が下ろされることが決定しました。

公式発表と市場の反応

バタフライは公式サイトにて、2025年2月21日以降、フェイントAGを廃盤製品とすることを発表しました。この発表を受け、多くの卓球用品店では在庫限りの販売となり、オンラインストアでも「品切れ」の表示が目立つようになっています。

このニュースは、特に長年フェイントAGを愛用してきた前陣攻守型のプレイヤーにとって大きな衝撃となりました。SNSや掲示板では、「代わりのラバーを探さなければならない」「なぜ廃盤になるのか」といった声が上がっており、その影響の大きさがうかがえます。

フェイントAGの代替候補は?

フェイントAGの廃盤に伴い、愛用者は代替ラバーを探す必要に迫られます。「攻撃的な粒高」という観点から、いくつかの候補が考えられます。

  1. 攻撃もできる変化系粒高:
    • STIGA バーティカル20/55: 粒が縦目に配置されており、攻撃時の打ちやすさとブロックの安定性を両立しています。特に硬めのスポンジを持つ「55」は、攻撃時の威力を重視するプレイヤーに適しています。
    • VICTAS カールP5V: カールシリーズの中で最も攻撃を重視したモデル。硬めのゴム質で、粒が倒れすぎないため、スマッシュなどの強打が安定します。
  2. 変化系表ソフトへの移行:
    • Nittaku ドナックル: 粒高に近い粒形状を持つ変化系表ソフト。ナックル性のボールを出しやすく、攻撃力も兼ね備えているため、フェイントAGからの移行先として有力な選択肢です。
  3. 他のテンション系粒高:
    • TIBHAR グラスD.TecS: 前述の通り、AGとは特性が異なりますが、同じテンション系として高い攻撃性能を持ちます。ただし、スピン反転の強さに慣れる必要があります。

どのラバーを選ぶかは、フェイントAGの「どの特性を最も重視していたか」によって異なります。スピード、ナックル、ドライブの打ちやすさなど、自身のプレースタイルと照らし合わせながら、慎重に選択する必要があるでしょう。

結論:フェイントAGが卓球界に残したもの

バタフライ「フェイントAG」は、単なる一つの製品に留まらず、「粒高ラバーは守備的な用具」という固定観念を打ち破った革命的な存在でした。ハイテンション技術を粒高に融合させるという大胆な試みにより、前陣でのアグレッシブな攻撃を可能にし、多くのプレイヤーに新たな勝利の方程式を提供しました。

その一方で、変化性能を割り切ったピーキーな性能は、使用者を選ぶラバーでもありました。しかし、その尖ったコンセプトこそが、フェイントAGを唯一無二の存在たらしめていたのです。

2025年の廃盤は、一つの時代の終わりを告げるものです。しかし、フェイントAGが切り拓いた「攻撃する粒高」という道は、今後登場するであろう新しいラバーへと受け継がれていくはずです。フェイントAGは、卓球用具の進化の歴史において、燦然と輝く一ページを刻んだラバーとして、これからも記憶され続けるでしょう。