バタフライ フェイントAG 完全レビュー:攻撃型粒高の性能と評価


現代卓球が求める「攻撃する粒高」

現代の卓球において、粒高ラバーの役割は単なる守備や変化に留まりません。相手の強打を凌ぐだけでなく、自ら積極的に攻撃を仕掛け、得点に結びつける能力が不可欠となっています。このような潮流の中で、株式会社タマスが展開するブランド「バタフライ」は、攻撃的なプレースタイルを追求する粒高ラバー『フェイントAG』を開発しました。

このラバーは、従来の粒高が持つナックルボールの出しやすさを維持しつつ、バタフライ独自の「ハイテンション技術」を搭載することで、これまでにない攻撃性能を付与されています。本記事では、フェイントAGの基本スペックから技術的な特徴、そして実際の使用者によるレビューを多角的に分析し、その真価に迫ります。

フェイントAGの基本スペックと性能指標

フェイントAGがどのような特性を持つラバーなのか、まずは公式データからその輪郭を捉えます。

公式スペック一覧

フェイントAGは「ハイテンション粒高ラバー」に分類され、そのスペックは攻撃志向を明確に示しています。

  • 分類: ハイテンション 粒高ラバー
  • スピード: 7.0
  • スピン: 4.0
  • スポンジ硬度: 28度
  • スポンジ厚: 中、ウス、ゴクウス
  • 価格: 5,500円(税込)

スピード値「7.0」は、他のフェイントシリーズ(例:フェイント・ロングIIの6.25)と比較して高く設定されており、攻撃時の威力を重視した設計思想がうかがえます。一方で、スピン値は「4.0」と、同社の変化系粒高であるフェイント・ロングIIIと同等です。これは、回転をかける能力も一定レベルで保持していることを示唆しています。

データソース: バタフライ公式サイトおよびmytabletennis.netの情報を基に作成

公式評価に見る性能バランス

バタフライは、各技術における「安定性」と「変化」を独自に評価しています。フェイントAGは特にプッシュ(安定性9)とブロック(安定性8)において高い安定性を発揮します。一方で、「変化(総合2)」の評価は極めて低く、相手を幻惑させるような予期せぬボールが出にくいことを示しています。これは、ボールを意のままにコントロールし、安定した攻撃につなげることを優先した設計思想の表れと言えるでしょう。

技術的特徴の深掘り

フェイントAGのユニークな性能は、バタフライの先進技術と緻密な設計によって支えられています。

ハイテンション技術がもたらす攻撃力

フェイントAGの最大の特徴は、粒高ラバーでありながらを搭載している点です。この技術は、ラバーのシートとスポンジに分子レベルでテンション(張り)を与えることで、ボールが当たった際のエネルギーロスを抑え、高い反発力を生み出します。これにより、従来の粒高ラバーでは難しかった、威力のある攻撃的な返球が可能になります。

「『フェイントAG』は「ハイテンション技術」により攻撃力を追求しました。打球の威力で得点するアグレッシブなプレーに適した、ハイテンション ツブ高ラバーです。」

ただし、一部のレビューでは、テンションラバーとしては弾みが控えめであるとの指摘もあります。これは、シート自体のスピード性能が低めに設定されており、スポンジに食い込ませることで初めて飛距離が伸びるという特性に起因するようです。この絶妙なバランスが、コントロールと攻撃力の両立を実現しています。

粒形状とスポンジの秘密

詳細な分析によると、フェイントAGの性能にはその物理的構造が大きく関わっています。

  • 粒形状: 粒は比較的小さく、アスペクト比(高さと直径の比)は約1.0。形状は円柱形で根元がわずかに台形になっています。この構造により、ボールインパクト時に粒が適度に曲がりやすく、球持ちの良さとコントロール性能に貢献しています。
  • 粒配列: 粒は「横目」に配置されています。これにより、ボールを捉える際のフィーリングや回転のかけやすさに影響を与えていると考えられます。
  • スポンジ: 28度という柔らかめのオレンジ色のスポンジが採用されています。この柔らかいスポンジがボールを深く食い込ませ、攻撃時にはスピードを、守備時にはコントロールを高める役割を果たします。シート自体はやや硬めですが、スポンジの柔らかさが全体の打球感を「少し柔らかめ」に調整しています。

使用者レビューから見るリアルな性能

カタログスペックだけでは分からない実際の使用感について、多くのユーザーレビューを基に分析します。

攻撃性能:「表ソフトのように打てる」感覚

フェイントAGの評価で最も多く聞かれるのが、その卓越した攻撃性能です。多くの使用者が「攻撃がしやすい」と口を揃えます。

卓球歴11〜20年のユーザーは、「粒高の打球感なのに表ソフトのようにドライブをかける事が出来る」と評価しており、チキータや相手のドライブに対するカウンタードライブも可能だと述べています。これは、従来の粒高ラバーのプレースタイルを大きく超える可能性を示しています。

「このラバーは自分で回転をかけていけるので、チキータも出来ますしプッシュとブロックで粘るだけじゃなく相手のドライブに対してドライブをかけ返したりして、粒高でのプレーの幅を広げる事が出来ます。」

また、浮いたボールに対するプッシュやスマッシュは非常にやりやすく、「軽く送り出すだけで、球離れよくいい感じのナックルボールが飛ぶ」ため、チャンスボールを逃しません。その攻撃力は「一部のショートピンプル(表ソフト)よりも速い」と評されることもあります。

守備・コントロール性能:作るナックルと安定したブロック

攻撃性能に注目が集まりがちですが、守備面でのコントロール性能も高く評価されています。特に、ボールの長短のコントロールがしやすい点が強みです。

卓球歴20年以上のユーザーは、ツッツキにおいて「切ろうと思えば切れるし、ふわっと合わせるとナックルになる」という使い分けが可能だと報告しています。また、テンション系でありながら、台上のストップも予想以上にやりやすいとのことです。

ブロックに関しては、ただ当てるだけでは相手の強烈なスピンに負けてしまうことがありますが、「少し意識してラケットを調整すれば、表や裏ソフトよりはブロックしやすい」という意見が多数見られます。これは、ラバーが持つ球持ちの良さと、柔らかいスポンジによる衝撃吸収性が寄与していると考えられます。

変化とクセ:限定的な回転反転と素直な弾道

フェイントAGを選ぶ上で最も注意すべき点は、変化性能が低いことです。従来の粒高ラバーのように、相手の回転を利用して強烈な回転反転(リバーサル)を起こしたり、ボールが不規則に揺れる(ウォブル)効果はほとんど期待できません。

“Deception is poor due to its spin again (IMO). Reversal is also very light or none. It reacts like a smooth rubber.”

このラバーは「当てただけで回転がわからなくなる変化は出ない」と明言されており、変化で相手を惑わすのではなく、自らボールをコントロールしてコースや球種で攻めるプレースタイルに向いています。また、相手の回転の影響を比較的受けやすいため、レシーブなどでは注意が必要です。

どのような選手に最適か?

これらの特徴を総合すると、フェイントAGは以下のような選手に最適なラバーと言えます。

  • 前陣攻守型の選手: カットで粘るよりも、前陣でブロックやプッシュを多用し、積極的に攻撃に転じたい選手。
  • 攻撃力を求める粒高ユーザー: 従来の粒高の守備力に物足りなさを感じ、バックハンドでもっと攻撃的なプレーをしたい選手。
  • 表ソフトからの移行を考える選手: 表ソフトの攻撃的な感覚を維持しつつ、粒高特有のナックルボールやブロックのしやすさを取り入れたい選手。レビューでは「表と裏の中間くらいの性能」と表現されています。
  • 戦術の幅を広げたい選手: 守備的な粒高のイメージを覆し、バック側からでも多彩な攻撃を仕掛けることで、相手の意表を突きたい選手。

逆に、粒高特有の変化や回転反転を最大限に活かして相手を崩すスタイルの選手には、このラバーは不向きかもしれません。

他のラバーとの比較

フェイントAGの位置づけをより明確にするため、他のラバーと比較してみましょう。

  • フェイント・ロングII / III との比較: これらはより伝統的な粒高ラバーで、変化やカットの安定性に優れます。一方、フェイントAGはスピードと攻撃力で明確に勝ります。攻撃のしやすさを取るか、変化の大きさを取るかで選択が分かれるでしょう。
  • カールP4 / バーティカル20 との比較: これらも変化系粒高として人気がありますが、使用者レビューでは「攻撃のし易さはフェイントAGが1番好感触だった」という声があり、攻撃面でのアドバンテージが際立ちます。
  • 中ペン粒高選手との相性: ペンホルダーのバック面に貼り、プッシュやショートを主体とする選手にとって、フェイントAGの攻撃性能とコントロールのしやすさは大きな武器になります。「ペン粒にとてもおすすめです」というレビューも見られます。

結論:戦術の幅を広げる新世代の粒高ラバー

バタフライ フェイントAGは、「攻撃できる粒高」というコンセプトを高いレベルで実現した画期的なラバーです。ハイテンション技術と緻密な設計により、粒高ラバーの常識を覆すほどの攻撃性能と、安定したコントロール性能を両立させています。

確かに、従来の粒高が持つようなトリッキーな変化や強烈な回転反転は期待できません。しかし、その代わりに「自ら回転を作り出し、攻撃を仕掛ける」という新たな可能性を粒高ユーザーに提供します。これは、守備一辺倒になりがちな粒高のプレースタイルから脱却し、より主体的でアグレッシブな卓球を目指す選手にとって、強力なパートナーとなるでしょう。

「通常の粒高では打てず消極的になってしまうが、粒高のナックルも捨てられない人に最高のラバーです。ボールを作って攻めていくような人にとって、大変使いやすいものだと思います。」

フェイントAGは、単なる用具の一つではなく、現代卓球における粒高の役割そのものを再定義する可能性を秘めたラバーと言えるのではないでしょうか。