卓球の表ソフトラバーといえば、ナックルボールによる変化や速いスマッシュが主な武器とされてきました。しかし、その常識を覆し、「スピン」という新たな軸を提示したのが、バタフライのインパーシャルXSです。2016年11月21日の発売以来、そのユニークな性能で多くの上級者や攻撃型プレイヤーから支持を集めています。
本記事では、インパーシャルXSがなぜこれほどまでに評価されるのか、その秘密を徹底的に解剖します。公式スペックからユーザーレビュー、ライバル製品との比較まで、あらゆる角度からその性能と魅力を深掘りしていきます。
インパーシャルXSとは?:新時代のスピン系表ソフト
インパーシャルXS(Impartial XS)は、卓球用品メーカーの株式会社タマス(ブランド名:バタフライ)が開発したハイテンション技術搭載の表ソフトラバーです。その名称にある「XS」は「Extra Spin(エクストラスピン)」を意味し、その名の通り、従来の表ソフトの概念を超える高いスピン性能を最大の特徴としています。
「ハイテンション技術」による高い弾性に加え、スピンをかけやすいツブ形状のシートが、威力あるドライブや鋭いツッツキなど回転を生かしたプレーの可能性を広げます。
これにより、スマッシュやミート打ちといった直線的な攻撃だけでなく、裏ソフトラバーのように回転をかけたドライブで弧線を描く攻撃が可能になりました。まさに、表ソフトのスピード感と裏ソフトのスピン性能を融合させた、攻撃的なプレースタイルを切り拓くためのラバーと言えるでしょう。
基本スペックと技術的特徴
インパーシャルXSの卓越した性能は、その独自の設計思想と先進技術に支えられています。ここでは、公式スペックと、その性能を支える核心技術について詳しく見ていきましょう。
公式スペック一覧
バタフライが公表しているインパーシャルXSの主なスペックは以下の通りです。なお、スピードとスピンの性能指標は2023年2月に改定された新基準に基づいています。
- 製品名: インパーシャルXS (Impartial XS)
- 発売日: 2016年11月21日
- ラバータイプ: ハイテンション・表ソフト
- テクノロジー: ハイテンション
- スピード (改定後): 70
- スピン (改定後): 70
- 弧線 (改定後): 70
- スポンジ硬度: 30度
- スポンジ厚: 1.7mm (中), 1.9mm (アツ), 2.1mm (トクアツ), 2.3mm (MAX)
- 原産国: 日本
特筆すべきは、スポンジ硬度が30度と比較的柔らかめに設定されている点です。これによりボールが食い込みやすくなり、コントロール性能と回転のかけやすさを両立させています。多くのレビューで「ミートがしやすい」と評価されているのは、この柔らかいスポンジの影響が大きいと考えられます。
スピンを生み出す2つの核心技術
インパーシャルXSが「エクストラスピン」を実現している背景には、トップシートの緻密な設計があります。主に以下の2つの要素が、その高い回転性能を支えています。
- 回転をかけやすい「台形」の粒形状:
インパーシャルXSの粒は、先端が平らな円錐台形をしています。この形状により、ボールを捉える面積が広がり、インパクト時にボールをしっかりとグリップすることができます。多くのレビューで「裏ソフトに近い感覚で回転をかけられる」と評されるのは、この粒形状が大きく貢献しています。この台形形状が回転性能を引き出す鍵であると指摘されています。 - ボールを掴む「横目」の粒配列:
粒の配列が横方向に並んでいる「横目」であることも重要な特徴です。縦目のラバーがボールを弾きやすくスピードを重視するのに対し、横目はボールとの接触時間が長くなり、回転をかけやすくなります。粒同士の間隔が狭く高密度に配置されている点も、回転重視の設計思想の表れだと分析されています。
これらの技術的特徴が組み合わさることで、インパーシャルXSは表ソフトでありながら、強力なスピンをかけた攻撃を可能にしているのです。
性能を徹底解剖:各技術でのリアルな使用感
スペックや技術的な特徴だけでなく、実際に使用した際の性能が最も重要です。ここでは、国内外のレビューを基に、ドライブ、ブロック、台上技術など、具体的なプレーシーンでのインパーシャルXSの使用感を掘り下げます。
攻撃性能:裏ソフトに迫るドライブとスピード
インパーシャルXSの最大の魅力は、その攻撃性能にあります。多くのユーザーが「表ソフトとは思えないほど回転がかかる」と評価しており、威力のあるドライブが打てると絶賛しています。
「これはもう表じゃない!!!裏ソフトなみに回転がかかり、スピードも出るので、威力のあるドライブが打てます!」
柔らかいスポンジと回転のかけやすいシートの組み合わせにより、ミート打ちやスマッシュでは力を入れなくても速いボールが打て、下回転に対しても安定してドライブで持ち上げることが可能です。「著しいカタパルト効果(弾射効果)があり、非常に速い」と評されており、そのスピード性能の高さがうかがえます。この特性は、前陣でのアグレッシブな攻撃を主体とするプレイヤーにとって強力な武器となります。
守備性能:高速ブロックとスピンへの対応
守備面での評価は、プレイヤーのスタイルによって意見が分かれる傾向にあります。その高い反発力から、相手の強打に対するブロックは非常に速く、カウンター気味の鋭い返球が可能です。しかし、その反面、いくつかの課題も指摘されています。
「相手の回転に敏感で、特に緊張した試合状況ではブロックが長くなりやすい」という弱点が挙げられています。これは、回転をかけやすいという長所の裏返しであり、相手のスピンの影響も受けやすいことを意味します。一方で、「一般的なドイツ系表ソフトとは異なり、ブロックがしっかり止まる」という評価もあり、ラケットの角度や打ち方によってコントロールが可能であることを示唆しています。能動的に手首を使ってボールを抑え込むようなアクティブなブロックを駆使することで、その性能を最大限に引き出せるでしょう。
台上技術とナックル:回転と変化の両立は可能か?
台上技術、特にツッツキにおいては、そのスピン性能が遺憾なく発揮されます。シートのグリップ力が高いため、鋭く切れたツッツキを送ることができ、相手に安易な攻撃をさせません。また、驚くべきことに、プッシュ(突き刺すような打法)でさえも強いバックスピンを生成できると報告されており、台上での主導権争いで優位に立てる可能性を秘めています。
一方で、表ソフト特有の武器であナックルボールについては、「意識しないと出にくい」というのが共通した見解です。あるブロガーは「ただ当てただけではナックルにはならない。しかし、ナックルにしようと思えば出すことは可能で、ギリギリ表ソフトらしさを残している」と分析しています。回転をかける技術と、あえて回転をかけずにナックルを出す技術を使い分けるには相応の習熟が必要ですが、それができれば非常に多彩な攻めが可能になります。
ライバルラバーとの徹底比較
インパーシャルXSの立ち位置をより明確にするため、他の人気ラバーと比較してみましょう。まずは兄弟製品である「インパーシャルXB」、次に市場で競合する他社製品との違いを見ていきます。
兄弟ラバー「インパーシャルXB」との違い
インパーシャルシリーズには、バランスを重視した「インパーシャルXB(Extra Balance)」が存在します。両者は同じスポンジを使用していますが、トップシートの設計が異なり、それが性能の差を生んでいます。
- インパーシャルXS (Extra Spin):
- 粒形状: 台形
- 粒配列: 横目
- 特徴: スピン性能を最大化。ドライブや回転系技術で威力を発揮。
- インパーシャルXB (Extra Balance):
- 粒形状: 円柱+台形
- 粒配列: 縦目
- 特徴: スピードとスピンのバランスを追求。スマッシュやブロックなど、より直線的な弾道で表ソフトらしいプレーに適している。
バタフライの旧性能値(スピード12.2/スピン7.9)とXB(スピード11.9/スピン6.7)を比較すると、XSがスピード・スピン共にわずかに上回っています。簡単に言えば、回転と威力を求めるならXS、安定性と表らしいナックルを求めるならXBという選択になるでしょう。
人気表ソフト「モリストSP」「スペクトルS2」との比較
市場には多くの優れた表ソフトが存在します。ここでは、特に人気が高いニッタクの「モリストSP」とTSP(現VICTAS)の「スペクトルS2」と性能を比較します。
- インパーシャルXS: 回転性能が突出しており、スピードも高いレベルで両立。裏ソフトに近い感覚で扱える一方、ナックルの出しやすさは他に劣ります。
- モリストSP: 日本代表の伊藤美誠選手が使用していたことでも有名なラバー。スピードとコントロールのバランスに優れ、特にスマッシュの安定感に定評があります。ナックルも出しやすく、総合力の高いラバーです。
- スペクトルS2: 伝統的なスピード系表ソフトの正統進化版。直線的な弾道とスピードが持ち味で、ナックルも出しやすいです。変化を重視するプレイヤーに適しています。
この比較から、インパーシャルXSは「回転で攻める」という独自の強みを持つラバーであることがわかります。表ソフトの選択肢の中で、明確な個性を持つ存在です。
インパーシャルXSはどんなプレイヤーにおすすめか?
これまでの分析を踏まえ、インパーシャルXSが特にその真価を発揮するプレイヤー像を具体的に見ていきましょう。
威力あるドライブで攻めたい攻撃型プレイヤー
「表ソフトでも威力のあるドライブを打ちたい」という願いを叶えるのが、このラバーの最大の強みです。スマッシュだけでなく、回転をかけたループドライブやスピードドライブを武器に加えたいフォア表、バック表の攻撃型プレイヤーに最適です。相手のツッツキを力強く持ち上げ、ラリーの主導権を握りたい選手にとって、これ以上ない選択肢となるでしょう。
回転を重視するペン表ソフトプレイヤー
片面ですべての技術をこなすことが多いペン表ソフトプレイヤーにとって、サーブ、ツッツキ、ドライブといった回転系技術の質は非常に重要です。多くのレビューで「ペン表ユーザーに向いている」と指摘されている通り、インパーシャルXSはサーブで切れ味鋭い回転をかけ、3球目攻撃で多彩なドライブを繰り出すことを可能にします。攻撃の幅を広げたいペンホルダーに強く推奨できます。
裏ソフトからの移行を検討中のプレイヤー
「表ソフトに挑戦したいが、回転がかけられなくなるのが不安」と感じるプレイヤーは少なくありません。インパーシャルXSは、裏ソフトに近い感覚で回転をかけられるため、表ソフトへの入門用・移行用ラバーとして非常に優れています。球離れが速すぎず、コントロールも比較的容易なため、表ソフトの特性に慣れながら、これまでの回転をかける感覚も活かすことができます。
スポンジ厚による性能の違い
インパーシャルXSは「中」「アツ」「トクアツ」「MAX」と4種類のスポンジ厚がラインナップされており、厚さによって性能が微妙に異なります。レビューを総合すると、以下のような傾向が見られます。
- MAX / トクアツ (2.3mm / 2.1mm): スポンジが厚い分、ボールが深く食い込み、より強い回転とスピードを生み出します。ドライブの安定感も増し、攻撃力を最大限に引き出したいプレイヤーにおすすめです。「攻撃力と安定感を両立させたいなら特厚」とされています。
- アツ / 中 (1.9mm / 1.7mm): スポンジが薄くなることで、打球感がよりダイレクトになり、ミート打ちやスマッシュがやりやすくなります。また、ナックルなどの表ソフトらしい変化も出しやすくなる傾向があります。ドライブだけでなく、表ソフトらしいボールも織り交ぜたいプレイヤーに適しています。
自身のプレースタイルや、ラケットとの組み合わせを考慮して最適な厚さを選ぶことが重要です。例えば、弾みの強いカーボンラケットと組み合わせる場合は、コントロール性を重視して少し薄めの「アツ」を選ぶといった調整も有効です。
結論:攻撃の選択肢を広げる革新的ラバー
バタフライ インパーシャルXSは、単なる表ソフトラバーの枠に収まらない、革新的な製品です。その核心は、「スピン」という武器を表ソフトプレイヤーに提供した点にあります。
ユーザーレビューの平均評価を見ても、スピン性能が特に高く評価されていることがわかります。これにより、プレイヤーは従来の「弾く」「叩く」といった攻撃に加え、「擦って持ち上げる」「回転でねじ込む」といった多彩な戦術を手に入れることができます。
もちろん、相手の回転に敏感であったり、ナックルが出しにくいといった側面もありますが、それらを補って余りある攻撃性能と戦術の多様性をもたらしてくれます。表ソフトの新たな可能性を追求したい、より攻撃的な卓球を目指したいすべてのプレイヤーにとって、インパーシャルXSは試す価値のある一枚と言えるでしょう。




