バタフライ フェイント・ロングII:安定性と変化を両立する不朽の名作ラバー徹底解説


卓球の世界において、用具の進化はプレースタイルそのものを変革してきました。特に、相手の回転を利用し、予測不能なボールを生み出す「粒高ラバー」は、守備的な選手や異質攻撃型の選手にとって不可欠な武器です。その中でも、株式会社タマス(バタフライ)が1999年に発売して以来、四半世紀近くにわたり世界中のプレイヤーから愛され続けているのが『フェイント・ロングII』です。

本記事では、この不朽の名作ともいえる粒高ラバーがなぜ今なお多くの支持を集めるのか、その性能、特徴、そして他のラバーとの違いを、参考資料やユーザーレビューを基に徹底的に分析・解説します。

フェイント・ロングIIとは?- 製品の基本情報

『フェイント・ロングII』は、単なる古いラバーではありません。その設計思想には、現代卓球にも通じる普遍的な強みが秘められています。

開発コンセプトと歴史

『フェイント・ロングII』は、1999年2月1日に発売されました。その開発コンセプトは、「変化と安定性の両立」にあります。具体的には、粒の細長さ(アスペクト比)を当時の国際卓球連盟(ITTF)のルールで許される限界まで追求し、粒が倒れ込むことによる「変化」を最大化しつつ、ラバー全体の設計で「安定性」を確保することを目指しました。この絶妙なバランスが、カット主戦型や前陣での攻守に優れた性能を発揮する基盤となっています。

『フェイント ロングII』はツブの細長さ(アスペクト比)をルールで許される限界に設計し、変化を求めつつ、安定性とのバランスにも優れています。

技術仕様と性能データ

バタフライ公式によると、『フェイント・ロングII』の主な仕様は以下の通りです。

  • ラバータイプ: 粒高ラバー (Pimples LONG)
  • スピード: 6.25
  • スピン: 3.25
  • スポンジ硬度: 38度
  • スポンジ厚: ウス (1.1~1.3mm), ゴクウス (0.8~1.1mm)

スポンジ硬度38度は、近年の粒高ラバーの中では「やや硬め」に分類されます。この硬めのスポンジと、密度が高くしっかりとした粒の組み合わせが、相手の強打に負けない安定したブロックやカットを可能にしています。一方で、スピン性能の数値は低いですが、これは自ら回転をかける能力ではなく、粒高特有の変化性能を示唆しています。

「安定性」と「コントロール」で極めて高い評価を得ていることが一目瞭然です。一方で、「スピード」や自ら回転をかける「スピン」性能は控えめであり、このラバーが守備と変化に特化していることを示しています。

プレースタイル別性能分析

『フェイント・ロングII』の真価は、様々なプレースタイルで発揮されます。ここでは、代表的な3つのプレースタイルにおける具体的な性能を掘り下げます。

カット主戦型:中~後陣での鉄壁の守備

カット主戦型にとって、『フェイント・ロングII』は最も信頼できる相棒の一つです。特に中~後陣から相手の強力なループドライブに対して、その性能を最大限に発揮します。

最大の特徴は、非常に安定した低い弾道のカットが返球できる点です。38度のスポンジが相手のボールの威力を吸収し、コントロールを容易にします。ユーザーレビューでも「Defending far from the table is its best strength.(台から離れた守備が最大の強み)」と評されており、粘り強い守備を展開したい選手に最適です。

前陣攻守型:多彩なブロックとツッツキ

台の近くでプレーする前陣攻守型においても、『フェイント・ロングII』は優れた性能を見せます。相手の攻撃に対して、多彩なブロックで対応可能です。

  • ストップブロック: 相手のドライブの回転を殺し、ネット際に短く止めるブロックが容易です。ボールの勢いを吸収する能力が高いため、相手の連続攻撃のリズムを崩せます。
  • ツッツキ・プッシュ: 粒が硬めであるため、鋭く低いツッツキや、スピードのある攻撃的なプッシュが可能です。特にプッシュは、裏ソフトラバーに近い感覚で打てるというレビューもあり、守備一辺倒にならない戦術の幅を広げます。

これらの技術を駆使することで、相手を揺さぶり、チャンスボールを作り出す起点となります。

限定的ながら効果的な攻撃性能

『フェイント・ロングII』は守備的なラバーですが、攻撃能力が皆無というわけではありません。特にスポンジ厚を「ウス(1.1mm以上)」にすると、その可能性が広がります。

相手の浮いたボールや下回転サーブに対して、フラットなミート打ち(スマッシュ)で攻撃することができます。ボールはナックル性で直線的に飛んでいくため、相手はタイミングを合わせにくく、意表を突く一打となります。ただし、裏ソフトラバーのような回転をかけたドライブは難しく、あくまで奇襲やチャンスボールの処理として使うのが効果的です。

他の主要粒高ラバーとの比較

『フェイント・ロングII』の立ち位置をより明確にするため、他の人気粒高ラバーと比較してみましょう。

vs フェイント・ロングIII:安定性か、変化の質か

同じ「フェイント・ロング」シリーズの『フェイント・ロングIII』は、しばしば比較対象となります。両者の最大の違いはスポンジ硬度と粒の挙動にあります。

『フェイント・ロングIII』はスポンジ硬度が25度と非常に柔らかく、粒が倒れやすいため、揺れるようなナックルボールなど、より大きな「変化」を生み出しやすいのが特徴です。

一方、『フェイント・ロングII』は硬度38度と硬めで、粒がしっかりしているため、相手の強打に対してブレが少なく、より高い「安定性」と「コントロール」を提供します。どちらを選ぶかは、予測不能な変化で相手を惑わしたいか、それとも安定した守備でミスを誘いたいか、という戦術思想によって決まります。

vs カールP-1V:コントロールか、最大変化か

VICTASの『カールP-1V』(旧TSP『カールP-1R』)は、粒高ラバーの代名詞的存在です。こちらは粒が非常に柔らかく、スピン反転能力が極めて高いことで知られています。

『カールP-1V』は相手の回転を最大限に利用して強烈な下回転を返せる一方、その性能を引き出すには繊細な技術が求められ、扱いが難しい側面があります。対照的に、『フェイント・ロングII』はスピン反転能力こそ『カールP-1V』に劣るものの、はるかに扱いやすく、ミスが出にくいという利点があります。あるユーザーは「Much more forgiving than P1R.(P1Rよりずっと寛容だ)」と評価しており、粒高初心者や安定性を最優先する選手にとって、『フェイント・ロングII』は優れた選択肢となります。

vs イリウスS:新世代ラバーとの思想の違い

バタフライが近年発売した『イリウスS』は、新世代の粒高ラバーです。硬度45の「アブソーバー スポンジ ヘビー」を採用し、粒自体も硬めに設計されています。

『イリウスS』は、自ら回転をかけて鋭いカットや攻撃を仕掛ける、より能動的なプレースタイルを志向しています。そのため、使いこなすには高いスイングスピードが求められます。あるレビューでは「早いスイングスピードと粒を倒す感覚が求められる」と分析されています。これに対し、『フェイント・ロングII』は相手の力を利用する受動的なプレーを得意とし、より幅広いレベルのプレイヤーがその恩恵を受けられる設計思想となっています。

最適な用具の組み合わせ(ブレード選定)

ラバーの性能を最大限に引き出すには、ブレード(ラケット)との相性が重要です。『フェイント・ロングII』のコントロール性能を活かすための組み合わせを紹介します。

推奨されるブレードの種類

『フェイント・ロングII』は、コントロールと打球感のフィードバックに優れたブレードと相性が良いとされています。

  • 守備用ブレード: バタフライの『インナーシールド レイヤー ZLF』や『ハッドロウシールド』、あるいはDONICの『デフプレイ センゾー』のような、弾みを抑え、球持ちが良い守備用ブレードは鉄板の組み合わせです。カットの安定性が格段に向上します。
  • コントロール系オールラウンドブレード: 『コルベル』のような、球持ちの良い木材5枚合板のブレードも好相性です。守備だけでなく、前陣でのブロックや攻撃も織り交ぜるオールラウンドなプレーに適しています。

逆に、弾みが強すぎるカーボンブレードと組み合わせると、コントロールが難しくなる可能性があるため、選定には注意が必要です。

フォア面ラバーとの組み合わせ

現代のカットマンは、バック面の粒高で守りつつ、フォア面の裏ソフトラバーで攻撃することも求められます。この「異質攻守」スタイルにおいて、フォア面のラバー選びも重要です。

カットの安定性と攻撃力のバランスを考えると、『テナジー05』のようなスピン系テンションラバーや、よりコントロールを重視した『ロゼナ』などが良い組み合わせとなります。守備で粘り、チャンスが来たらフォアで確実に得点するという戦術を組み立てやすくなります。

ユーザーレビューと評価の集約

世界中の卓球フォーラムやレビューサイトには、『フェイント・ロングII』に関する数多くの声が寄せられています。それらを要約すると、以下のような共通見解が浮かび上がります。

高評価のポイント:
“Really nice controlled long pip. Displays uniformity in quality and consistentcy.” (非常にコントロールの良い粒高。品質と一貫性に優れている。)

“Very nice pimples to learn defending. It is very controllable and easy to use.” (守備を学ぶのにとても良い粒。非常にコントロールしやすく、使いやすい。)

注意点:
“These pips (at least in 1.1 sponge) do not provide much in the way of spin reversal…” (この粒は、少なくとも1.1mmスポンジでは、スピン反転はあまり大きくない…)

総じて、「圧倒的なコントロール性能と安定性」「粒高入門者にも優しい扱いやすさ」が高く評価されています。一方で、スピン反転やボールの変化といった「いやらしさ」は、他の特化型粒高ラバーに比べて控えめであるという意見も多く見られます。これは、このラバーがトリッキーな変化で点を取るのではなく、安定した返球で相手のミスを誘うことを主眼に置いている証左と言えるでしょう。

まとめ:フェイント・ロングIIはどのような選手におすすめか?

『バタフライ フェイント・ロングII』は、発売から20年以上が経過した今もなお、その価値を失わない稀有な粒高ラバーです。派手な性能はありませんが、その信頼性と汎用性は他の追随を許しません。

このラバーは、以下のような選手に特におすすめできます。

  • これから粒高を始める、または基本を学びたい選手: 扱いやすさとコントロール性能の高さが、粒高特有の打球感覚を習得する上で大きな助けとなります。
  • 試合でのミスを減らし、安定した守備を築きたいカット主戦型: 相手の強打を確実に抑え、粘り強いラリーで勝機を見出したい選手にとって、最高の武器となるでしょう。
  • 前陣で相手のリズムを崩したい攻守型選手: 安定したブロックと鋭いプッシュを駆使して、守備から攻撃への転換をスムーズに行いたい選手に適しています。

最新のテンション技術や特殊なスポンジを搭載したラバーが次々と登場する現代において、『フェイント・ロングII』が示すのは「基本性能の高さ」という普遍的な価値です。もしあなたが卓球の守備技術に深みと安定性を加えたいと考えているなら、この不朽の名作を一度試してみる価値は間違いなくあるでしょう。