バタフライ ロゼナ徹底解説:性能、評価から最適な選び方まで


ロゼナとは:安定性を追求したハイパフォーマンスラバー

2017年4月21日に株式会社タマス(バタフライ)から発売された『ロゼナ』は、卓球界に大きな影響を与えた「スプリングスポンジ」を搭載したハイテンション裏ソフトラバーです。その最大の特徴は「トレランス(Tolerance=寛容性)」にあります。これは、打球時のわずかなラケット角度やスイング方向のズレをカバーし、プレーに安定感をもたらす性能を指します。

ロゼナは、トップ選手向けのフラッグシップモデルである『テナジー』シリーズや『ディグニクス』シリーズが持つ圧倒的な威力を追求するのではなく、より幅広い層のプレイヤーがハイパフォーマンスラバーの恩恵を受けられるように設計されました。多くのレビューで指摘されているように、テナジーシリーズの持つ高いポテンシャルを継承しつつ、優れたコントロール性能と手頃な価格を実現したことで、「強くなるためのラバー」として初心者から上級者まで、多くのプレイヤーのステップアップを支える存在となっています。

「『ロゼナ』を使うことで『自分にもこんなボールが打てたんだ』『こんなプレーができたんだ』ということに気付いて、選手としてステップアップを遂げていただけるのではないかと期待しています」

核心を支える3つのテクノロジー

ロゼナの優れた性能は、バタフライが長年培ってきた3つの核心技術の組み合わせによって実現されています。それぞれの技術がどのように機能し、プレイヤーに何をもたらすのかを解説します。

トレランス:ミスを恐れない寛容性

ロゼナのコンセプトを最も象徴するのが「トレランス」です。卓球は、常に変化するボールに対して瞬時に最適な打球点で、正確な角度とスイングで対応することが求められる競技です。しかし、特に中級レベルまでのプレイヤーにとって、毎回完璧な打球をすることは困難です。バタフライが定義するように、トレランスとは、こうした「打球時の微妙なラケット角度やスイング方向の誤差をカバーしやすい特徴」を指します。

ロゼナは、新開発のトップシートとスプリングスポンジの組み合わせにより、ボールがラバーに深く食い込み、プレイヤーの意図に近いボールを安定して打ち返すことを可能にします。これにより、多少体勢が崩れたり、打点がずれたりしてもボールがネットを越え、相手コートに収まりやすくなります。この「ミスになりにくい」という安心感が、プレイヤーに自信を与え、より積極的なプレーを引き出すのです。

スプリングスポンジ:ボールを掴む感覚

ロゼナには、世界のトッププレイヤーを魅了した「スプリングスポンジ」が搭載されています。このスポンジは、内部に大きな気泡を持つ独自の構造が特徴です。インパクトの瞬間、スポンジがバネのように大きく収縮してボールをしっかりと掴み、その反発力で力強く弾き出します。

この「ボールを掴む」という独特の感覚は、プレイヤーが回転やスピードを意のままにコントロールするのを助けます。多くのユーザーレビューでも「ボールの食い込みが良い」「回転がかけやすい」といった評価が寄せられており、スプリングスポンジがもたらす優れたコントロール性能と打球感は、ロゼナの大きな魅力の一つです。

ハイテンション技術:威力と安定の両立

ハイテンション技術は、ゴムの分子に意図的に高い張力(テンション)を与えることで、ラバーの持つ弾性と摩擦力を最大限に引き出すバタフライ独自のテクノロジーです。この技術により、エネルギーロスを抑えながら、スピードとスピン性能を飛躍的に向上させます。

ロゼナは、このハイテンション技術によって、安定性を重視しながらも十分な威力を確保しています。軽い力でもボールがよく弾むため、インパクトが弱いプレイヤーでもスピードのあるボールを打つことが可能です。トレランスとスプリングスポンジ、そしてハイテンション技術が三位一体となることで、ロゼナは「安定」と「威力」という二つの要素を高次元で両立させています。

性能レビューと多角的な評価

ロゼナは発売以来、多くのプレイヤーに愛用され、数々のレビューが寄せられています。ここでは公式スペックと実際の使用感を基に、その性能を多角的に分析します。

公式スペックとユーザーレビューから見る全体像

バタフライは2023年2月に性能指標を改定しましたが、ここでは他ラバーとの比較がしやすい旧指標と、現在の指標を併記します。

  • スピード: 13 (旧) / 83 (新)
  • スピン: 10.8 (旧) / 70 (新)
  • スポンジ硬度: 35度
  • 弧線: 75 (新)

多くのレビューサイトやユーザーの声を総合すると、ロゼナは「スピード、スピン、コントロールのバランスが非常に取れたラバー」として評価されています。特に、テナジーシリーズと比較して打球感が柔らかく、ボールをコントロールしやすい点が強調されています。硬度35度という設定は、硬すぎず柔らかすぎない絶妙なバランスで、ボールをしっかり食い込ませて回転をかける感覚を掴みやすいと好評です。

技術別パフォーマンス分析

ロゼナは様々な技術において、そのバランスの良さを発揮します。

  • ドライブ: ボールをしっかり食い込ませるように打つことで、安定した高い弧線を描くスピードドライブが可能です。特にフォア面で使用した場合、インパクトが多少弱くてもラバーがボールを飛ばしてくれる感覚があり、ラリーの安定性が向上します。
  • ブロック: トレランス性能が最も活きる技術の一つです。相手の強打に対してもラバーが威力を吸収し、抑えが効くため、当てるだけで安定して返球しやすいと評価されています。海外のレビューでも、速いラバーに比べてブロックが非常に簡単である点が指摘されています。
  • 台上技術(チキータ・フリック): 柔らかめの打球感とボールの掴みやすさから、チキータやフリックといった攻撃的な台上技術がやりやすいという声が多数あります。特にバックハンドでの操作性に優れ、バックハンドフリックを習得するのに理想的なラバーとも言われています。
  • サーブ・レシーブ: スピン性能も十分でキレのあるサーブが出せますが、それ以上に評価が高いのがレシーブです。相手の回転の影響を受けにくく、ツッツキやストップをコントロールしやすいため、安定した試合運びを可能にします。

主要ラバーとの徹底比較

ロゼナの立ち位置をより明確にするため、バタフライの他の主要ラバーと比較します。

テナジーシリーズとの関係性

ロゼナはしばしば「テナジーの廉価版」と見なされがちですが、そのコンセプトは異なります。ロゼナはテナジーへのステップアップを支援する「架け橋」としての役割を担っています。

  • 性能と打球感: テナジー05と比較すると、ロゼナは打球感が柔らかく、コントロール性に優れます。一方、スピードやスピンの最大値ではテナジー05に軍配が上がります。
  • スポンジ硬度: ロゼナの硬度35度は、テナジー05(36度)よりわずかに柔らかく、テナジー05FX(32度)よりは硬い設定です。これにより、威力をある程度維持しつつ、FXシリーズよりもボールを掴みやすいという絶妙なポジションに位置します。
  • 価格とターゲット: 最大の違いは価格です。ロゼナはテナジーシリーズよりも手頃な価格設定となっており、高性能ラバーを初めて使う中級者や、コストを抑えたいプレイヤーにとって最適な選択肢となります。テナジーの性能を使いこなす前の段階で、ロゼナを使って安定した技術を習得することが推奨されています。

グレイザーシリーズとの違い

2023年に発売された『グレイザー』も、ロゼナと同様にコストパフォーマンスを重視したラバーですが、両者には明確な違いがあります。

  • 硬度と性能: グレイザーのスポンジ硬度は38度で、ロゼナ(35度)よりも硬めです。性能指標では、グレイザーはスピンと弧線でロゼナを上回り、スピードではわずかに下回ります。これにより、グレイザーはより威力と回転量を求めるプレイヤー向け、ロゼナは安定性と扱いやすさを重視するプレイヤー向けと言えます。
  • コンセプト: ロゼナが「トレランス(寛容性)」を追求しているのに対し、グレイザーは「テナジーに近い性能をより扱いやすく」というコンセプトを掲げています。パワーのある男性プレイヤーなどはロゼナからグレイザーへ移行する選択肢もありますが、パワーに自信のない選手や女性、ジュニア選手にとっては、より柔らかく扱いやすいロゼナが適している場合が多いです。

ロゼナの選び方と最適な組み合わせ

ロゼナの性能を最大限に引き出すためには、自身のプレースタイルやレベルに合ったラケットやスポンジ厚を選ぶことが重要です。

推奨されるプレイヤー層とプレースタイル

ロゼナは非常に幅広いプレイヤー層に適しています。

  • 初心者〜中級者: これから卓球の基本技術を固め、ステップアップしたいプレイヤーに最適です。特に、安定したラリーを身につけたいドライブ主戦型の選手に向いています。元日本代表の水谷隼氏も「できれば最初から『ロゼナ』を使ってほしい」と推奨しています。
  • 上級者のバックハンド用: 多くのレビューで、上級者のバックハンド用ラバーとしての評価が非常に高いです。バックハンドに求められる安定したブロック、カウンター、チキータなどの技術を高いレベルで実現できるため、多くのトップ選手も採用しています。
  • コントロールを重視する攻撃型選手: 一発の威力よりも、ラリーを組み立てて確実に得点したい選手にフィットします。安定性が高いため、試合でのプレッシャーがかかる場面でも信頼できるラバーです。

相性の良いラケットの選び方

ロゼナはバランスの取れたラバーであるため、基本的にどのようなラケットとも合わせやすいですが、特に相性の良い組み合わせが存在します。

  • 初心者向け(コントロール重視): 球持ちが良くコントロール性能に優れた木材5枚合板のラケットがおすすめです。『コルベル』や『水谷隼メジャー』などは、ロゼナの安定性をさらに高め、基礎技術の習得を助けます。
  • 中級者向け(スピードとバランス): さらなる威力を求めるなら、特殊素材を搭載したラケットが選択肢になります。特に、カーボンの弾みと木材の球持ちを両立したインナーファイバー仕様のラケット(例:『インナーフォース レイヤー ALC』)は、ロゼナの性能をバランス良く引き出します。強打時には威力を発揮しつつ、軽く打った時にはコントロールしやすいという組み合わせが実現できます。
  • 上級者向け(威力重視): アウターカーボン仕様のラケット(例:『ビスカリア』)と組み合わせることで、ロゼナの持つスピード性能を最大限に引き出すことができます。特にバックハンドで弾きの良さを求めるプレイヤーに人気の組み合わせです。

スポンジ厚の選択ガイド

ロゼナには「中(1.7mm)」「厚(1.9mm)」「特厚(2.1mm)」の3種類のスポンジ厚があります。

  • 中(1.7mm): 最もコントロール性能に優れ、軽量です。守備的なプレーや、ブロック、ツッツキなどの安定性を最優先したいプレイヤーにおすすめです。
  • 厚(1.9mm): スピードとコントロールのバランスが最も良い厚さです。初心者から中級者が最初に選ぶ厚さとして最も推奨されます。多くの技術をバランス良くこなすことができます。
  • 特厚(2.1mm): 最も弾みが強く、スピードとスピンの最大値が高まります。威力のあるドライブを打ちたい攻撃型プレイヤーや、上級者に適しています。ただし、その分コントロールは難しくなります。

寿命とメンテナンス

ラバーの寿命は練習量やプレースタイルによって大きく異なりますが、ロゼナの寿命については様々な意見があります。毎日1時間程度の練習で2〜3ヶ月が交換の目安という声がある一方で、より短い期間(10〜12時間程度)で性能の低下を感じるというレビューも存在します。

しかし、スプリングスポンジの特性上、表面が摩耗しても急激に性能が落ちるわけではなく、他のラバーに比べて比較的長く使えるという評価もあります。総じて、一般的なテンションラバーと同程度の寿命と考えて良いでしょう。

性能を長持ちさせるためには、使用後に専用のクリーナーで表面の汚れを拭き取り、保護フィルムを貼って保管することが重要です。

開発背景:「テナジーへの架け橋」として

ロゼナの開発は、フラッグシップモデルである『テナジー』の成功が原点にあります。テナジーはその圧倒的な性能で卓球界を席巻しましたが、高価であるため誰もが気軽に使えるラバーではありませんでした。そこで、「テナジーの良さをより多くの人に体験してほしい」という思いから、性能とコストの両立を目指すプロジェクトが2016年9月にスタートしました。

開発をリードした土屋祐一氏によれば、テナジーで培った「スプリングスポンジ」や「ハイテンション技術」のノウハウを基盤とし、生産工程の共通化や歩留まりの向上といった工夫を重ねることで、性能の低下を最小限に抑えながらコスト削減を実現しました。その結果、わずか半年という異例の短期間で開発から発売に至ったのです。ロゼ色のスポンジは、バタフライのコーポレートカラーを象徴しており、同社の技術と誇りが詰まった製品であることを示しています。

まとめ:ステップアップを目指す全ての選手へ

バタフライ『ロゼナ』は、単なる「テナジーの廉価版」ではなく、「安定性」と「扱いやすさ」を追求し、プレイヤーの成長を支えるという明確なコンセプトを持ったハイパフォーマンスラバーです。

その核心である「トレランス」は、打球のブレを補正し、ミスを恐れずにプレーする自信を与えてくれます。スプリングスポンジがもたらすボールを掴む感覚は、回転をかける楽しさとコントロールの重要性を教えてくれるでしょう。

初心者にとっては基礎技術を習得するための最高のパートナーとなり、中級者にとっては次のレベルへ駆け上がるための強力な武器となります。そして、上級者でさえも、その安定性からバックハンドの信頼できる相棒として選択肢に入れる価値があります。

威力と安定性の絶妙なバランス、そして優れたコストパフォーマンス。ロゼナは、強くなることを目指す全てのプレイヤーにとって、試す価値のある一枚と言えるでしょう。