テナジーファミリーの「異端児」、テナジー25とは?
卓球の世界において、株式会社タマスが展開するブランド「バタフライ」の「テナジー」シリーズは、単なるラバーの名称を超え、一個の金字塔として君臨している。2008年の登場以来、その圧倒的な性能は世界のトップシーンを席巻し、アマチュアからプロフェッショナルまで、数え切れないほどのプレイヤーのプレースタイルを根底から変革してきた。そのファミリーの中でも、「回転の05」「スピードの64」といった、性能を端的に表すキャッチコピーはあまりにも有名だ。
しかし、この輝かしいテナジーファミリーの中に、ひときわ異彩を放ち、ある種の「異端児」として語られる存在がある。それが、本稿で徹底的に解剖する「テナジー25」である。
テナジー05が2008年4月に登場した後、同年11月に発売されたテナジー25は、シリーズ初期のメンバーでありながら、その後の主流とは異なる独自の進化の道を歩んだ。多くのメディアやレビューが「前陣でのプレーに特化」「カウンター主戦型向け」と評するように、その性能は極めて専門的(スペシャライズド)であり、誰にでも合う万能性とは対極に位置する。この特異性ゆえに、テナジー25は一部の熱狂的な支持者を生む一方で、多くのプレイヤーにとっては「扱いにくい」「自分のスタイルには合わない」と敬遠されがちな存在でもあった。
本記事の目的は、この「異端児」テナジー25の謎に満ちた性能を、構造的な観点から論理的に解き明かし、その真価を明らかにすることにある。単なるスペックの羅列や感想の紹介に留まらず、なぜテナジー25が前陣で無類の強さを発揮するのか、その核心的なメカニズムに迫る。さらに、テナジー05や80といった他の主要モデルとの厳密な比較を通じて、テナジー25でなければならない理由、そしてどのような選手がこのラバーを手にすべきかを、具体的な使用シーンまで踏み込んで徹底的に解説していく。この記事を読み終える頃には、テナジー25が単なる「異端」ではなく、特定の戦術を極めるための「革命的」なツールであることが理解できるだろう。
【最重要】テナジー25のDNAを徹底解剖:なぜ前陣で無類の強さを発揮するのか?
テナジー25の性能を理解する上で最も重要なのは、その特異な物理的構造と、それがもたらす打球への影響を解き明かすことである。このセクションでは、テナジー25の核心、すなわち「開発コードNo.25」のツブ形状に焦点を当て、なぜこのラバーが「前陣のスペシャリスト」と呼ばれるに至ったのか、そのDNAを多角的に深掘りしていく。ここが本稿の最重要パートであり、後続する全ての分析の根幹をなす部分である。
秘密は「開発コードNo.25」のツブ形状にあり
バタフライのテナジーシリーズは、共通の「スプリング スポンジ」技術を基盤としながらも、トップシートのツブ(Pimples)形状を変えることで、各モデルの個性を創出している。開発にあたり100種類以上の金型が試作されたという事実が、そのこだわりを物語っている。テナジー25の魂は、まさに「開発コードNo.25」と名付けられた、他のどのテナジーにも見られないユニークなツブ形状に宿っている。
その最大の特徴は、シリーズのベンチマークであるテナジー05と比較した際に明確になる。物理的特徴は「ツブが太く、間隔が狭い」ことである。複数のレビューサイトで「pimples of a larger diameter」と表現されている通り、テナジー25のツブは直径が大きく、密に配置されている。この構造が、打球感と性能に決定的な影響を与えるのだ。
この因果関係を論理的に説明しよう。
- 硬めの打球感の創出:ツブが太く、密集しているということは、ボールがインパクトした際にシートが変形しにくいことを意味する。細く間隔の空いたツブ(テナジー05など)は、個々のツブが倒れ込むことでボールを深く「掴む」感覚を生む。一方、テナジー25の太いツブは柱のようにシートを支え、剛性を高める。これにより、ボールがシート表面で潰れずに弾かれるような、ソリッドで「硬め」の打球感が生まれる。ユーザーが「chunky(分厚い、がっしりした)」と表現する感覚は、この構造に起因する。
- 低い弾道(低弧線)の物理的根拠:ボールを深く掴むラバー(例:テナジー05)は、インパクト時にシートが大きくしなり、ボールに強い上方向の力を与えるため、高い弧線を描きやすい。対照的に、テナジー25はシートの変形が少ないため、ボールはラケットのスイング方向に、より直線的に、つまり低い弾道で飛び出す傾向が強くなる。多くのレビューで「low throw rubber」と評されるのはこのためだ。この「低弧線」こそが、テナジー25の長所と短所を決定づける最重要特性である。
- 「掴む」より「弾く」感覚:上記の2点から導き出される必然的な帰結として、テナジー25のプレー感覚は、ボールをシートに食い込ませて回転をかける「掴む(Grip)」感覚よりも、相手のボールのエネルギーを利用して素早く弾き返す「弾く(Repel)」感覚が支配的になる。これは、薄く擦って回転を生み出すプレーよりも、ボールを厚く捉えて叩く、あるいは角度を合わせて弾くプレーとの相性が良いことを示唆している。
結論として、テナジー25の「太く、密集したツブ形状」は、単なる設計上の違いではなく、硬い打球感、低い弾道、そして弾きの良さという一連の性能特性を生み出す根源である。この物理的DNAを理解することが、次項で解説する技術別パフォーマンスの神髄を把握するための鍵となる。
技術別パフォーマンス・ディープダイブ
テナジー25の特異なDNAが、実際のプレーシーンでどのように発揮されるのか。ここでは、主要な卓球技術ごとにそのパフォーマンスを深く掘り下げ、長所と短所を明確にしていく。
カウンター&ブロック:前陣の「壁」にして「矛」
テナジー25が最も輝くのが、このカウンターとブロックの局面である。多くの熟練プレイヤーがこのラバーを「カウンターの覇者」と呼ぶのには、明確な理由がある。
「Block: A lot easier with T25. I feel immediately a better control and and I’m able to vary the deepness and the placement of my shots. I can absorb the energy of the incoming loop and make a short and dead block or accelerate. Smash the incoming loop is also easier. This is a very strong point of T25.」
このレビューが示すように、テナジー25のブロック性能は傑出している。そのメカニズムは、前述のツブ形状と密接に関連している。相手の強烈なループドライブに対し、テナジー05のような高弾道・高回転ラバーは、回転の影響を強く受けてしまい、ブロックがオーバーミスになりやすい傾向がある。ボールを「掴みすぎる」ため、ラケット角度の微調整が非常にシビアになるのだ。
一方、テナジー25はシートの剛性が高く、相手の回転に対して鈍感である。ボールがシートに深く食い込まず、表面で弾かれるため、相手のスピンをある程度「無効化」できる。これにより、プレイヤーはラケット角度をシンプルに合わせるだけで、相手のボールの威力を利用した、低く、速いカウンターブロックを安定して繰り出すことが可能になる。いわゆる「当てるだけ」で鋭い返球ができる感覚は、この特性によるものだ。これは、特にピッチの速い現代卓球の前陣での攻防において、絶大なアドバンテージとなる。守備的なブロックが、一瞬にして攻撃的なカウンターへと転化するのである。
台上技術(フリック、チキータ、ストップ):先手を取るための鋭利な刃
現代卓球では、ラリーが始まる前の3球目、5球目攻撃、特に台上での先手争いが勝敗を大きく左右する。この領域においても、テナジー25は他のテナジーシリーズとは一線を画す強みを発揮する。
専門店の解説にもある通り、「台上でのフリックやチキータは鋭く、相手の回転に影響されにくい」のが特徴だ。その理由は、やはり低い弾道とダイレクトな打球感にある。テナジー05でチキータをする場合、ボールを薄く捉えて横回転を強くかけ、高い弧線で相手コートにねじ込むイメージが強い。しかし、これは非常に高度な技術を要する。
対してテナジー25は、ボールを薄く「こする」のではなく、やや厚めに捉えて「弾き出す」プレーと相性が良い。直線的な弾道で、相手の懐に突き刺さるような鋭いフリックやチキータが可能だ。ボールが上に飛びすぎないため、ネットを越えてからの失速が少なく、相手に時間を与えない。これは、従来のテナジーが比較的苦手としてきた「台上での先手攻撃」において、テナジー25が持つ明確な優位性と言える。
また、守備的な台上技術であるストップにおいても、その性能は光る。高反発なラバーはストップを短く止めるのが難しいが、テナジー25は硬いシートがボールの勢いを殺しやすく、コントロールされた短いストップが可能である。これにより、相手に強打させず、次の展開を有利に進めることができる。
スマッシュ&ミート打ち:「裏ソフト版の表ソフト」という個性
テナジー25のもう一つのユニークな側面は、フラット系の打法、すなわちスマッシュやミート打ちで真価を発揮する点だ。ループドライブが主流の現代卓球において、決定打としてのスマッシュの重要性が見直されているが、テナジー25はこの戦術に完璧にマッチする。
その感覚は、一部で「表ソフトに近い感覚」と評されることからも理解できる。表ソフトラバーは、ボールを弾く感覚が強く、スピードのあるナックル性のボールを出しやすいのが特徴だ。テナジー25は、その表ソフトのようなダイレクトな弾きとスピードを持ちながら、裏ソフトならではの高い回転性能も(ある程度)兼ね備えている。つまり、「回転もかけられるスマッシュ」や「スピードのあるミート打ち」といった、質の高いフラット系攻撃を可能にするのだ。
チャンスボールをループドライブで繋ぐのではなく、一撃で打ち抜きたいプレイヤーにとって、この特性は強力な武器となる。ボールを叩き潰すような打法でもコントロールを失いにくく、安心して強打できる信頼感は、テナジー25ならではの美点である。
スピンとドライブ(長所と短所):プレースタイルを規定する境界線
ここまでテナジー25の長所を中心に解説してきたが、その特異な性能は、同時に明確な短所、あるいは「不得意な領域」を生み出している。それが、中~後陣からのループドライブである。
まず長所として、サーブやツッツキといったコンパクトなスイングで行う技術においては、シートのグリップ力が高いため、十分な回転を生み出すことができる。ユーザーレビューでも「Serves are loaded(サーブは回転がよくかかる)」といった評価が見られる。短いタッチでもボールに回転を伝えやすいのは、前陣でのプレーにおいて有利に働く。
しかし、問題は台から距離を取った際のドライブだ。特に、相手の低い下回転ボールを「持ち上げる」ループドライブにおいて、テナジー25はその弱点を露呈する。前述の通り、このラバーは「低弧線」が特徴であるため、テナジー05のようにボールを大きく持ち上げて安全にネットを越す、というプレーが非常に難しい。「except maybe lifting underspin」というレビューは、この点を的確に指摘している。
プレイヤーは、自らのスイングでボールを上に持ち上げる意識を強く持つ必要があり、それでもネットミスやオーバーミスのリスクが伴う。中~後陣でのダイナミックな引き合いにおいても、弧線が低いためにラリーの安定性が低下し、テナジー05や64に軍配が上がる。この「ループドライブの難しさ」こそが、テナジー25のプレースタイルを「前陣特化型」に限定する最大の要因であり、このラバーを選ぶかどうかの最も重要な判断基準となるのである。
キーポイント:テナジー25のDNA
- 核心技術:「太く、密集した」開発コードNo.25のツブ形状が、全ての性能の源泉。
- 打球感と弾道:硬質でダイレクトな打球感と、直線的で低い弾道(低弧線)が最大の特徴。
- 絶対的長所:前陣でのカウンター、ブロック、台上フリックにおいて、他の追随を許さない性能を発揮。相手の力を利用するプレーに最適。
- 明確な短所:中~後陣からのループドライブ、特に下回転を持ち上げるプレーが難しい。プレースタイルを限定する要因となる。
テナジー25の立ち位置:主要テナジーシリーズとの徹底比較
テナジー25の特異な個性をより深く理解するためには、卓球市場で絶大な人気を誇る他のテナジーシリーズとの比較が不可欠である。ここでは、具体的なプレーシーンを想定しながら、テナジー05、64、80、そして19といった主要モデルとテナジー25を徹底的に比較し、その独自のポジショニングを明らかにする。
比較表:一目でわかる性能ポジショニング
まず、各モデルの特性を俯瞰するために、性能をマトリクス形式で整理する。以下の表は、バタフライ公式の性能指標や、専門メディアの分析、多数のユーザーレビューを統合して作成した、性能ポジショニングの概念図である。数値は絶対的なものではなく、相対的な位置づけを示す。
このチャートから明らかなように、テナジー25は「前陣コントロール」と「カウンター性能」において突出している一方で、「後陣スピード」や「ループ弧線」では他のモデルに劣る。まさに「一点特化型」の性能プロファイルを描いていることが視覚的に理解できるだろう。
ライバル分析:誰がどちらを選ぶべきか?
次に、具体的なライバルモデルとの対比を通じて、プレイヤーが自身のスタイルに合わせてどちらを選ぶべきかの指針を示す。
vs. テナジー05(回転の王者)
テナジー25を語る上で、最も頻繁に比較対象となるのが、シリーズ最高傑作との呼び声も高いテナジー05だ。
- 比較軸:ループドライブ vs. カウンター
この2つのラバーの選択は、まさに「自ら回転を生み出すか、相手の力を利用するか」という哲学の違いに集約される。テナジー05は、その優れたボールを掴む能力と高い弧線により、あらゆる体勢から強烈な回転のループドライブを放つことができる。「the spiniest non Chinese top sheet I have ever used」と評されるように、回転性能は絶対的だ。中~後陣でダイナミックに引き合い、ラリーの主導権を握りたいドライブ主戦型にとって、05は最高のパートナーとなる。 - 選択の分水嶺:
一方、テナジー25は前陣でのカウンターラリーで05を凌駕する。05のブロックは回転の影響を受けやすく繊細な角度調整を要するが、25は相手のドライブに対して「壁」を作り、低く速いボールで切り返すことが容易だ。ユーザーレビューの直接比較では、ControlがT25=9/10、T05=6.5/10と大差がつくケースもある。試合の組み立てを、自らの強力なループドライブを中心に行うなら**テナジー05**。相手の攻撃を前陣で封殺し、速いピッチのカウンターで得点するスタイルなら**テナジー25**が最適解となる。
vs. テナジー64(スピードの王者)
テナジー64はシリーズ最速を誇り、スピードを重視するプレイヤーに愛用されてきた。
- 比較軸:ラリーの距離とスピードの種類
テナジー64のスピードは、中~後陣からでも相手コート深くに突き刺さる「絶対速度」である。ボールがラバーに食い込み、直線的に鋭く飛んでいくため、距離のあるラリー戦でその真価を発揮する。「most suitable for mid to long distance loopers」と分析される通りだ。 - 選択の分水嶺:
対するテナジー25のスピードは、絶対的な最高速ではなく、前陣での「反応速度(ピッチの速さ)」である。打球間のインターバルが短く、相手に考える時間を与えない。台から下がって一発の威力で勝負するなら**テナジー64**。台に張り付き、息をもつかせぬ連続攻撃で畳み掛けるなら**テナジー25**が有効だ。スピードの「質」の違いが、選択の鍵となる。
vs. テナジー80(万能の優等生)
テナジー80は、05の回転と64のスピードを融合させ、高いレベルでバランスを取った「万能ラバー」として知られる。
- 比較軸:バランス vs. 特化
テナジー80は「Jack of all trades, master of none(多芸は無芸)」と評されることがあるが、その真意は「突出した弱点がない」ことにある。ドライブ、スマッシュ、ブロック、台上技術といったあらゆるプレーを高い水準でこなすことができるため、オールラウンドなプレースタイルにマッチする。 - 選択の分水嶺:
テナジー25は、この80とは対極の思想で作られている。平均点が高い80に対し、25は特定の科目(前陣カウンター、ブロック)で100点満点以上を叩き出すが、他の科目(後陣ドライブ)では赤点に近い。自分のプレースタイルが明確で、特定の戦術を「必殺技」として磨き上げたいのであれば、**テナジー25**はその期待に応えるだろう。一方、試合展開に応じて様々な技術を使い分け、安定したラリーを志向するなら**テナジー80**が信頼できる相棒となる。「何でもできる」を求めるか、「これだけは誰にも負けない」を求めるかの違いだ。
vs. テナジー19(パワーの最新鋭)
2021年に登場したテナジー19は、パワーとグリップ力に焦点を当てた最新モデルである。
- 比較軸:ボールの掴み方とパワーの出し方
テナジー19は、開発コードNo.219のツブ形状により、ボールをシート表面で強く「掴む(グリップする)」感覚が特徴だ。これにより、自らのスイングパワーをロスなくボールに伝え、相手の強打に打ち負けない力強いボールを放つことができる。パワーヒッター向けのラバーと言える。 - 選択の分水嶺:
テナジー25のパワーの源泉は、自ら生み出す力というよりは、相手の力を利用する「弾き」にある。19が「自力で殴り勝つ」ためのラバーなら、25は「相手の力を倍にして返す」カウンターパンチャー向けのラバーだ。インパクトの瞬間にボールを掴んで押し出す感覚を好むなら**テナジー19**。相手のボールに対して角度を合わせてコンパクトに弾き返す感覚を好むなら**テナジー25**。パワーの源泉が自力か他力か、という打法の違いが選択を分ける。
テナジー25を120%活かすための実践ガイド
テナジー25が極めて専門的なラバーであることは、これまでの分析で明らかになった。その性能を最大限に引き出すためには、プレイヤーのスタイルや用具の組み合わせが極めて重要になる。このセクションでは、理論から一歩進み、具体的な使い方を指南する。
推奨されるプレースタイルと選手像
テナジー25は、万人向けのラバーではない。しかし、特定のプレースタイルの選手にとっては、他のどのラバーにも代えがたい「必殺武器」となりうる。
ベストマッチ:このラバーを手にすべき選手
- 前陣速攻型・カウンター主戦型選手:
これが最も典型的なテナジー25ユーザー像だ。常に台の近くに張り付き、相手の攻撃を待ってましたとばかりにカウンターで切り返す。ピッチの速いラリー展開を得意とし、相手に時間を与えずに攻め立てるスタイル。テナジー25の低く速い弾道と、回転に鈍感なブロック性能は、まさにこの戦術のためにある。という評価が、その適合性を物語っている。 - バックハンドに安定と鋭さを求める選手:
特にバックハンドにおいて、守備的なブロックと攻撃的なカウンターを両立させたい選手に最適だ。多くの選手が、フォアはテナジー05などで回転量の多いドライブを打ち、バックはテナジー25で安定したブロックと鋭いカウンターを狙う、という組み合わせを採用している。「25 is a much better fit for me on the backhand side」というレビューは、多くのユーザーの実感を代弁している。 - 表ソフトからの移行を考える選手:
表ソフトの弾きの良さやナックル性のボールを活かしたプレーをしていた選手が、裏ソフトの回転量を加えたい、と考えた際の移行先として非常に興味深い選択肢となる。テナジー25は、表ソフトに近いダイレクトな打球感を持ちながら、裏ソフトとしてのスピン性能も有しているため、プレースタイルの根幹を変えずに、戦術の幅を広げることが可能だ。
アンマッチ:このラバーを避けるべき選手
- 中~後陣でダイナミックなループドライブで戦う選手:
台から距離を取り、大きく弧線を描くループドライブを武器とする選手にとって、テナジー25の低弧線特性は致命的な弱点となりうる。下回転を持ち上げるのが難しく、ラリーの安定性を欠くため、ストレスを感じる場面が多くなるだろう。このような選手は、迷わずテナジー05やテナジー19を選ぶべきである。 - 丁寧につないでラリーを展開する安定志向の選手:
ミスをせず、じっくりとラリーを組み立てるタイプの選手にも、テナジー25は向いていないかもしれない。このラバーは、良くも悪くもボールが直線的に速く飛ぶため、ループで「間」を作ったり、ゆっくりとしたボールで繋いだりするプレーが難しい。常に攻撃的な意識が求められる、アグレッシブなラバーである。
用具の組み合わせ(セッティング)
ラバーの性能は、組み合わせるラケットによって大きく変化する。テナジー25の個性を活かす、あるいはマイルドにするためのセッティングを紹介する。
相性の良いラケット
- カーボン系ラケット(例:ビスカリア、張本智和ALC):
アリレートカーボン(ALC)などの特殊素材を搭載したラケットとの組み合わせは、テナジー25の長所を最大限に引き出す王道のセッティングだ。ラケット自体が持つ高い反発力と、テナジー25の弾きの良さが相乗効果を生み、一撃のカウンターやスマッシュの威力を極限まで高める。元日本代表の丹羽孝希選手が過去に使用していたとされる組み合わせ(Amultart ZLC + T25)も、この方向性である。ただし、ボールが非常に速くなるため、相応の技術とフットワークが要求される上級者向けの組み合わせと言える。 - 木材系ラケット(例:コルベル、ハッドロウシリーズ):
純木材のラケットや、インナーファイバー系のラケットと組み合わせることで、テナジー25の硬質で直線的な打球感を適度にマイルドにし、コントロール性能を高めることができる。ラケットがボールを持つ時間(球持ち)を長くしてくれるため、直線的になりすぎる弾道を補正し、ラリーに安定感をもたらす。テナジー25の弾きの良さは活かしつつ、もう少しプレーに余裕が欲しい、と考える選手に適した組み合わせだ。
フォア or バック?
テナジー25をどちらの面に貼るかは、その選手の戦術によって決まる。
- バック面(推奨):
一般的には、バック面での使用が圧倒的に多い。バックハンドは、フォアハンドに比べてスイングがコンパクトになりがちであり、ブロックやカウンターの頻度も高い。テナジー25の「コンパクトなスイングでも鋭く返球できる」「相手の強打を安定してブロックできる」という特性は、バックハンドの要求に完璧に応える。 - フォア面:
フォア面にテナジー25を使用するのは、より個性的なプレースタイルの選手だ。例えば、フォアハンドでもループドライブよりスマッシュやミート打ちを多用する、いわゆる「異質攻撃型」の選手。あるいは、徹底して前陣に張り付き、フォアでもバックでもカウンターを狙う超攻撃的な選手にとっては、フォア面のテナジー25も強力な選択肢となりうる。ただし、フォアハンドでの安定したループドライブが戦術の軸である大多数の選手にとっては、フォア面にはテナジー05や19などを選択するのが一般的である。
まとめ:テナジー25は、あなたの「必殺武器」となりうるか?
本稿では、テナジーファミリーの「異端児」であるテナジー25について、その構造的な秘密から具体的な戦術への応用まで、多角的に徹底解説してきた。最後に、この記事の結論として、テナジー25の核心的価値を再確認し、あなたがこのラバーを選ぶべきかどうかの最終判断材料を提供する。
テナジー25の核心的価値の再確認
結論から言えば、テナジー25は決して「万能ラバー」ではない。むしろ、その対極にある。その核心的価値は、**「前陣でのカウンターと速攻」という特定の戦術を極めるための『スペシャリスト向けラバー』**である、という点に尽きる。
回転の05、スピードの64、バランスの80といった他のモデルが、ある程度幅広いプレースタイルに対応できる汎用性を持つのに対し、テナジー25は自ら活躍の場を「前陣」に限定し、その領域でのパフォーマンスを極限まで高めている。そのユニークな性能は、他のどのラバーにも代えがたいものであり、一度その魅力に取り憑かれたプレイヤーにとっては、まさに唯一無二の存在となる。あるユーザーがと語ったように、テナジー25はプレイヤーを選ぶが、選ばれたプレイヤーには最高のパフォーマンスを約束する、極めて純度の高いツールなのである。
最終的な選択のためのチェックリスト
あなたがテナジー25を手にすべきかどうか、以下の質問に答えることで最終確認をしてほしい。
あなたのプレースタイルは?
- あなたの得意なプレー領域は、台から1メートル以内の「前陣」ですか?
- 得点パターンの多くは、自ら仕掛けるループドライブよりも、相手の攻撃を利用したカウンターやブロック、あるいは速いピッチのスマッシュですか?
- ボールを薄く擦って回転をかけるよりも、厚く捉えて弾き飛ばす、ダイレクトな打球感を好みますか?
- 台から下がってのラリー戦は不得意、あるいは意図的に避けていますか?
もし、これらの質問の多くに「はい」と答えるならば、テナジー25はあなたの卓球を新たなレベルに引き上げる強力なポテンシャルを秘めている。それはもはや「異端」ではなく、あなたのスタイルを完成させるための「革命」の引き金となるだろう。
製品スペックと購入情報
最後に、テナジー25の基本的な製品情報をまとめる。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 製品名 | テナジー25 (TENERGY 25) |
| 発売日 | 2008年11月21日 |
| テクノロジー | ハイテンション、スプリング スポンジ |
| スポンジ硬度 | 36 |
| スポンジ厚 | 2.1mm, 1.9mm, 1.7mm |
| シートカラー | レッド(006), ブラック(278) |
| 原産国 | 日本 |
| 価格 | オープン価格 (参考: 税込9,460円 ※2025年8月改定後) |
関連製品:テナジー25 FX
テナジー25には、スポンジを柔らかく(硬度32)した**「テナジー25FX」**というバリエーションも存在する。基本的な特性はテナジー25を継承しつつ、スポンジが柔らかくなったことで、ボールの食い込みが良くなり、コントロール性能と安定性が向上している。テナジー25の弾きの良さに魅力を感じるが、もう少し球持ちが欲しい、打球感が硬すぎると感じるプレイヤーにとって、FXは試してみる価値のある選択肢となるだろう。




