なぜ今、卓球ラバー選びが重要なのか?
「自分のプレースタイルに本当に合うラバーがわからない」「情報が多すぎて、結局どれを選べばいいのか迷ってしまう」。これは、卓球を愛するすべてのプレイヤーが一度は抱える共通の悩みではないでしょうか。毎年、各メーカーから革新的なテクノロジーを搭載した新作ラバーが発表され、選択肢は増え続ける一方です。この情報の洪水の中で、自分にとっての「正解」を見つけ出すことは、ますます困難になっています。
しかし、ラバー選びは単なる用具の選択ではありません。それは、自身の卓球を客観的に「診断」し、技術的な課題を克服し、長所をさらに伸ばすための最適な「処方箋」を見つけ出す、極めて戦略的なプロセスです。適切なラバーは、あなたのポテンシャルを最大限に引き出し、上達への道を切り拓く強力なパートナーとなり得ます。
この記事は、そんなラバー選びの悩みを解決するために生まれました。2025年の最新トレンドを反映した各メーカーの新製品情報から、定番ラバーの科学的な性能分析、そして初心者からプロレベルまでを網羅したレベル・戦型別の具体的なおすすめラバーまで、ラバー選びに関するあらゆる情報をここに集約しました。これは、単なる製品カタログではなく、あなたの卓球人生を豊かにするための「究極のガイド」です。
この記事を読み終える頃には、あなたは自分に最適な「運命の一枚」を見つけるための確かな知識と視点を手に入れているはずです。そして、その一枚が、あなたの卓球をこれまで以上に楽しく、そして強くしてくれることをお約束します。
第一部:ラバー選びの羅針盤 – 性能を理解するための基礎知識
最適なラバーを選ぶためには、まずラバーの性能を評価するための共通言語を理解する必要があります。ここでは、ラバーの性能を決定づける最も基本的な3つの要素と、その関係性について掘り下げていきます。
ラバー性能を司る「3大要素」の関係性
卓球ラバーの性能は、無数の要素が複雑に絡み合って決まりますが、その根幹をなすのが「スピード」「スピン」「コントロール」の3大要素です。これらは、それぞれ独立しているのではなく、互いに影響を及ぼし合うトレードオフの関係にあります。
スピード(威力)
スピードは、ボールの反発力、すなわち打球の速さを示す指標です。スピード性能が高いラバーは、相手コートに速いボールを送り込み、相手の反応時間を奪うことができます。特に、相手を打ち抜く強力なスマッシュや、速いテンポのラリーを展開したい攻撃的なプレースタイルには不可欠な要素です。一般的に、スポンジが厚く、硬いラバーほど反発力が高まり、スピード性能が向上する傾向にあります。
スピン(回転)
スピンは、ボールに回転をかける能力を示します。高いスピン性能は、ボールの軌道を大きく曲げるサーブや、バウンド後に鋭く伸びるループドライブなど、多彩な戦術を可能にする現代卓球の生命線です。トップシート(ボールが直接当たる表面のゴムシート)の摩擦力や、打球時にボールがラバーに深く食い込む度合いがスピン性能に大きく影響します。
コントロール(安定性)
コントロールは、打球を安定させ、狙ったコースに正確にボールを運ぶ能力です。ボールの弾みを適度に抑え、打球感が手に伝わりやすいラバーほどコントロール性能が高いと評価されます。ツッツキやストップといった繊細な台上技術や、相手の強打を確実にブロックする守備的なプレーにおいて、この性能が勝敗を分けます。全ての技術の土台となる、最も基本的な要素です。
上のチャートが示すように、これら3つの要素は、しばしば「あちらを立てればこちらが立たず」というトレードオフの関係にあります。例えば、スピードとスピンを極限まで追求した上級者向けラバーは、その反発力の高さからコントロールが非常に難しくなります。逆に、コントロールを最優先した初心者向けラバーは、どうしても威力(スピード・スピン)が不足しがちです。ラバー選びの本質とは、この3つの要素を、自分の技術レベルや目指すプレースタイルに合わせて、どのようにバランスさせるか、という戦略的な選択なのです。
【種類別】ラバーの特性と役割を徹底解剖
ラバーは表面の形状によって大きく4つに分類され、それぞれが全く異なる特性を持ちます。特に使用者が最も多い「裏ソフトラバー」は、内部でさらに細分化されており、その違いを理解することが現代卓球を制する鍵となります。
裏ソフトラバー:現代卓球の王道
表面が平らでツルツルした、最もポピュラーなラバーです。ボールとの接触面積が広いため回転をかけやすく、あらゆるプレースタイルに対応できる万能性が魅力です。その性能から、現代ではさらに以下の4タイプに分類するのが一般的です。
テンション系ラバー
ゴム分子のレベルで張力(テンション)をあらかじめかけておくことで、高い反発力を実現したラバー。スピードグルー(打球の威力を高める補助剤)が禁止された2008年以降、卓球界の主流となりました。少ない力でもスピードとスピンを両立した質の高いボールが打てるのが特徴で、バタフライの「テナジー」シリーズやニッタクの「ファスターク」シリーズがその代表格です。現代卓球において、攻撃型選手のほとんどがこのタイプを使用しています。
粘着系ラバー
トップシートの表面がベタベタしており、ボールが触れると一瞬貼り付くような性質を持つラバー。ボールを「擦る」ように打つことで、他のラバーでは不可能なほどの強烈な回転を生み出します。特に、低く鋭い軌道のループドライブや、回転量の多いサーブ・ツッツキで威力を発揮します。中国のDHS社製「キョウヒョウ」シリーズが象徴的存在で、伝統的に中国のトップ選手に愛用されてきました。ただし、弾みが弱いため、威力を出すには自らのスイングスピードとパワーが要求されます。
ハイブリッド(粘着テンション)系ラバー
近年のプラスチックボール化に対応するために生まれた、最も新しいタイプのラバーです。粘着性(あるいはそれに近い高摩擦)のトップシートと、反発力の高いテンションスポンジを組み合わせることで、「粘着の回転量」と「テンションのスピード」の両立を目指しています。バタフライの「ディグニクス09C」やDONICの「ブルーグリップ」シリーズなどが代表例で、台上での扱いやすさとラリーでの威力を兼ね備えることから、プロ・アマ問わず使用者が急増している現在のトレンドです。
高弾性ラバー
テンション技術が登場する以前の主流だったラバー。天然ゴムを主体とし、スポンジの弾力性を活かしてボールを飛ばします。テンション系に比べるとスピードやスピンの最大値は劣りますが、弾みが適度でボールの軌道が安定しているため、非常にコントロールしやすいのが特徴です。ヤサカの「マークV」やバタフライの「スレイバー」は、発売から数十年経った今でも、基本技術の習得を目指す初心者や、安定性を重視するプレイヤーから絶大な支持を得ています。
表ソフトラバー:スピードと変化のスペシャリスト
ボールが当たる面に円筒形の短い粒が並んでいるラバーです。ボールとの接触時間が短く、球離れが速いため、相手の回転の影響を受けにくいのが最大のメリット。スマッシュやミート打ちなど、弾く技術でスピードのある直線的なボール(ナックルボール)を繰り出すことができます。福原愛さんや伊藤美誠選手のように、前陣に張り付いて速いピッチで攻める「前陣速攻型」の選手に人気があります。代表的な製品にニッタクの「モリストSP」があります。
粒高ラバー:異質戦術のトリックスター
表ソフトよりも粒が細長く、柔らかいのが特徴です。打球時に粒が大きく倒れ込むことで、相手のボールの回転を反転させたり、予測不能な揺れるボールを生み出したりします。相手のドライブを強烈な下回転のカットで返すカットマンや、バックハンドで変化をつけてチャンスを作る異質攻撃型の選手が主に使用します。バタフライの「フェイント・ロング」シリーズやVICTASの「カール」シリーズが有名です。
アンチスピンラバー:回転を無効化する盾
見た目は裏ソフトラバーに似ていますが、トップシートの摩擦が意図的に極限まで抑えられています。これにより、相手の強烈なスピンをほぼ無効化し、回転のないナックルボールとして返球できます。特に回転量の多いループドライブに対するブロックが非常に安定するため、守備に特化したプレースタイルや、相手のリズムを崩すことを目的とする選手に用いられます。
性能を左右する物理的特性:スポンジの「厚さ」と「硬度」
ラバーの種類と並んで、性能に大きな影響を与えるのが、トップシートの下にあるスポンジの「厚さ」と「硬度」です。これらの物理的特性を理解することで、より自分に合ったラバー選びが可能になります。
厚さの影響:威力とコントロールの天秤
ラバーの厚さは、主にスポンジの厚さによって決まり、「特厚(トクアツ)」「厚(アツ)」「中(チュウ)」「薄(ウス)」といった言葉で表記されます。国際卓球連盟(ITTF)のルールでは、ラバーと接着剤を合わせた厚さは4.0mm以内と定められています。
- 厚い(厚、特厚): スポンジが厚いほど、打球時にボールが深く食い込み、スポンジの反発力を最大限に活かすことができます。これにより、スピードとスピンの最大値が向上します。威力のあるボールを求める攻撃型の選手や、中〜後陣からでもパワーのあるボールを打ちたい上級者に好まれます。一方で、弾みが強すぎるため、ストップやツッツキなどの繊細な台上技術のコントロールは難しくなります。
- 薄い(中、薄): スポンジが薄いと、ボールの食い込みが浅くなり、弾みが抑えられます。これにより、コントロール性能が大幅に向上します。打球感が硬く、ボールがラケットの木材(ブレード)に当たる感覚が手に伝わりやすいため、安定した返球が可能になります。基本技術を習得中の初心者や、ブロックやカットで相手の攻撃を凌ぐ守備型の選手に適しています。
一般的に、初心者は「中」から始め、技術の向上と共に「厚」や「特厚」へとステップアップしていくのが王道です。上級者の攻撃型選手が「厚」以下のラバーを使用することは稀であり、これは威力のデメリットを技術でカバーするのが困難なためです。
硬度の影響:パワーとフィーリングの相関
スポンジの硬度は、打球感やラバーの性能特性を決定づける重要な要素です。硬度は数値で示されますが、その基準はメーカーによって異なるため注意が必要です。
- 硬いスポンジ(Hard): 速いスイングスピードでボールをインパクトした際に、エネルギーロスなくボールにパワーを伝えることができます。これにより、爆発的な威力のボールを生み出すことが可能です。ただし、ボールを食い込ませるためには相応のパワーと技術が必要なため、主に筋力のある上級者やプロ選手向けです。打球感は「金属的」と表現されることが多く、球離れが速いのが特徴です。
- 柔らかいスポンジ(Soft): 比較的軽い力でもボールがスポンジに深く食い込み、ラバーがボールを「掴む」感覚を得やすいのが特徴です。これにより、安定したコントロールと回転のかけやすさを実現します。スイングスピードに自信がない選手や、力の弱い女性・ジュニア選手、または操作性が求められるバックハンドでの使用に適しています。打球感は「木材的」で、球持ちが良いとされます。
ラバーの硬度を比較する際に最も注意すべき点は、メーカーによって測定基準が異なることです。主に「日本基準」「ドイツ基準(ESN)」「バタフライ基準」「DHS基準」が存在し、同じ数値でも実際の硬さは全く異なります。例えば、ドイツ基準の47.5度は、日本基準の40度前後に相当すると言われています。ラバーを選ぶ際は、単一の数値だけでなく、複数のレビューや下記の比較表を参考に、総合的に判断することが重要です。
第二部:【2025年最新トレンド】注目すべき新製品&テクノロジー
2025年の卓球用具市場は、各社がポスト・ディグニクス時代を見据え、独自の哲学と革新的なテクノロジーを投入した意欲的な製品を次々と発表しています。ここでは、特に注目すべき新作ラバーと、それらと相性の良い最新ブレードについて、専門的なレビューを交えながら徹底解説します。
2025年 話題の新作ラバー徹底レビュー
今年の新作は、単なる性能向上だけでなく、特定のプレースタイルや打法に特化した「尖った」製品が目立ちます。自分の卓球を次のレベルに引き上げる一枚が見つかるかもしれません。
Butterfly Zyre-03:新時代のスピンモンスター
2025年、バタフライが満を持して投入したフラッグシップラバーが「Zyre-03(ザイア03)」です。バタフライの2025年新製品の中でも最大の注目株であり、そのコンセプトは「前代未聞の視点」から開発された、とされています。技術的な核心は、新開発のトップシート「Ricosheet」と、極めて厚い「スプリングスポンジX」の組み合わせにあります。このトップシートは、従来よりも低く、高密度に配置された粒形状(開発コードNo.303)が特徴で、ボールを掴んで強烈なスピンを生み出すことを目的としています。
実際の性能レビューを見ると、その評価は「圧倒的なスピン性能と深い弧線」に集約されます。特に下回転に対するループドライブのやりやすさは特筆もので、ボールを楽に持ち上げ、相手コート深くに突き刺さるような軌道を描きます。ラリー戦においても、その安定感と威力から主導権を握りやすいと高く評価されています。一方で、一部の粘着ラバーユーザーからは「最大スピン量は粘着ラバーに及ばない」という声や、ボールを薄く擦る(ブラッシング)打法よりも、スポンジに食い込ませるように打つ(ヒットする)打法の方が性能を引き出しやすいという指摘もあります。これは、粒が短く硬いため、シートのしなりよりもスポンジの反発力を活かす設計思想の表れと言えるでしょう。
価格は1枚12,000円を超え、バタフライ史上最も高価なラバーの一つですが、そのユニークな性能は、ラリーを主体とする攻撃型プレイヤーにとって、テナジーやディグニクスとは異なる新たな武器となる可能性を秘めています。既に日本のトップ選手である張本智和・美和兄妹や戸上隼輔選手が使用を開始しており、その性能の高さを証明しています。
Donic Bluegrip Jシリーズ (with 張継科):王者の哲学を宿す新粘着
2025年の大きなニュースの一つが、元世界チャンピオン張継科選手とDonicの契約です。そのコラボレーション第一弾として発表されたのが「Bluegrip J」シリーズです。このラバーの最大の特徴は、張継科選手自身が開発に深く関与し、単なる測定データではなくトップ選手の「感覚」を最優先した点にあります。
技術的には、粘着性を高める「ナノストラクチャー」技術を採用したトップシートと、短く太い円筒形の粒形状が、精密な打球感と高いスピン性能を実現。スポンジは硬めの設計ですが、粒の素材配合により、表記されている硬度よりも柔らかく感じるというユニークな特性を持っています。これにより、カタパルト効果(弾み)を意図的に抑え、スピン生成を最大化するという、まさに張継科選手のプレー哲学を体現したラバーとなっています。台上でのコントロールが非常に容易で、相手の強回転サーブに対しても回転を中和し、低く鋭いレシーブが可能です。
J1(55°)、J2(52.5°)、J3(50°)の3種類の硬度展開で、パワーと技術レベルの高い上級者向けのJ1から、コントロールを重視する中級者やオールラウンドプレイヤーでも扱えるJ2/J3まで、幅広い層に対応している点も魅力です。
Nittaku Hurricane 8-80:ニッタクが放つ「食い込ませるキョウヒョウ」
粘着ラバーの代名詞「キョウヒョウ」を製造するDHS社とニッタク社の共同開発によって生まれたのが「Hurricane 8-80」です。このラバーは、2025年のニッタク新製品の中でも特に驚きをもって迎えられました。コンセプトは、キョウヒョウの強烈な回転性能を維持しつつ、より食い込みの良いスポンジを組み合わせることで、テンションラバーのようなスピード感と扱いやすさを加えることにあります。
ユーザーレビューでは、本家DHS製の同名ラバーよりも扱いやすく、重量も適度であると評価されています。これにより、従来の粘着ラバーに「硬い」「重い」「飛ばない」といったイメージを持ち、敬遠していたテンションラバーユーザーにとっても、移行しやすい選択肢となっています。粘着ラバー入門者や、回転量を増やしたいバックハンドでの使用も面白い一品です。
Stiga Helix Platinum:モアガドが選んだ新兵器
スウェーデンの雄、Stigaが2025年8月に発表した「Helix Platinum」シリーズは、若き天才トルルス・モアガド選手が使用を開始したことで一気に注目を集めました。このラバーの核心技術は「Optimized Energy Sponge」にあり、打球ごと最大11%多くのエネルギーをリターンすると謳われています。これにより、少ない力でも効率的にパワーのあるボールを打つことが可能です。
モアガド選手は最も硬いXH(52.5度)を両面に使用していますが、レビューによれば、近〜中陣での攻撃性能、特に下回転の持ち上げやすさと安定性には定評があります。しかし、後陣まで下がった際の最大威力という点では、ブーストした粘着ラバーや「テナジー05」には一歩譲るという意見も見られます。むしろ、市場で最も人気を集めるのは、パワーとコントロールのバランスに優れたM(ミディアム)硬度になるだろうと予測されています。
XIOM OMEGA 8 (VIII) シリーズ:軽量ハイブリッドの回答
XIOMは2025年、現代のハイブリッドラバー市場に対する一つの回答として「OMEGA 8」シリーズをリリースしました。このシリーズのコンセプトは、同社の高性能粘着ラバー「Jekyll & Hyde C55」が持つスピン性能を、より軽量で扱いやすいパッケージで実現することにあります。
特に「OMEGA 8 China」は、C55の軽量版とも言える性能で、C55では重すぎて難しかったバックハンドでの使用を現実的なものにしました。レビューによれば、グリップ力が高く、コンパクトなスイングでもボールに強い回転をかけやすいと評価されています。一方で、その扱いやすさと引き換えに、絶対的なパワーを求めるハードヒッターにはやや物足りなさを感じさせる可能性も指摘されています。スピンを重視しつつ、ラケットの総重量を抑えたいプレイヤーにとって、非常に魅力的な選択肢となるでしょう。
2025年 話題の新作ブレードとの相性考察
新作ラバーの性能を最大限に引き出すには、ブレード(ラケット本体)との相性も重要です。ここでは、2025年に注目される新作ブレードと、前述のラバーとの組み合わせについて考察します。
- Donic 張継科シリーズ (New Era / Original Carbon): メーカー自身が「Bluegrip J」との組み合わせを推奨しています。パワーヒッター向けの硬質な「Original Carbon」には、最も硬い「Bluegrip J1」を合わせることで、張継科選手のような重い一撃を追求できます。一方、よりコントロール志向で扱いやすい「New Era」には、よりソフトな「J2」や「J3」を組み合わせることで、安定したラリー展開が可能になります。
- DHS Hurricane Long 5H: ZLC(ジーロンカーボン)のような高い弾きを持つインナーファイバーブレードです。伝統的な粘着ラバー「キョウヒョウ」との相性は言わずもがなですが、その高い反発力は「Zyre-03」や「Dignics 09C」といった最新のハイブリッドラバーの性能も引き出します。特にバックハンドのサポート力が高いため、両面に攻撃的なラバーを貼る現代的なスタイルにマッチします。
- Loki Liang Jingkun ADC: 中国のトップ選手、梁靖崑選手の名を冠したこのブレードは、粘着ラバーとの相性を重視して設計されたインナーアラミドカーボンブレードです。梁選手自身が使用する「キョウヒョウ」はもちろん、「Nittaku Hurricane 8-80」のような扱いやすい粘着系ラバーと組み合わせることで、パワフルかつ安定した両ハンドドライブを目指せます。
第三部:【完全網羅】レベル・戦型別 おすすめラバー大辞典
ここからは、本ガイドの核心部分です。あなたの現在の技術レベルと目指すプレースタイルに基づき、膨大な数のラバーの中から最適な「処方箋」を提案します。まずは自分の現在地を診断し、次に具体的なおすすめラバー、そして網羅的なカタログへと進んでいきましょう。
【レベル別診断】あなたのステージに最適な一枚はこれだ!
ラバー選びで最も重要なのは、自分のレベルに合った製品を選ぶことです。背伸びして上級者向けの高性能ラバーを使っても、性能を引き出せずにミスが増えるだけです。まずは自分のステージを客観的に見極めましょう。
初心者(卓球歴〜1年):まずは「コントロール」をマスターする
選び方の哲学: 卓球を始めたばかりのプレイヤーにとって最も大切なのは、ボールをラケットに当てて狙った場所に返す「コントロール」の感覚を養うことです。そのため、弾みすぎず、ボールを掴む感覚がわかりやすいラバーが最適です。威力よりも、安定してラリーを続ける楽しさを覚えることが、上達への一番の近道です。
- 種類: 裏ソフトラバー(高弾性タイプ or コントロール系テンション)
- 厚さ: 「中」
- 硬度: 柔らかめ(日本硬度30〜40度程度)
- Yasaka マークV: 50年以上の歴史を持つ「伝説の教科書」。スピード、スピン、コントロールのバランスが絶妙で、多くの指導者が最初の1枚に推薦する大ベストセラー。まずこれを使いこなすことが、全ての基本となります。
- Butterfly スレイバー: マークVと並ぶ高弾性ラバーの代名詞。マークVよりやや硬めの打球感で、ボールをしっかりとインパクトする感覚を学ぶのに適しています。
- XIOM ヴェガ ヨーロッパ: 柔らかく非常に扱いやすいテンションラバーの超定番。力が弱い女性や子供でも楽にボールを飛ばせ、安定感は抜群。卓球の楽しさを教えてくれる一枚です。
- VICTAS ヴェンタス レギュラー: 扱いやすさを追求した日本製のコントロール系ラバー。適度な弾みと安定性で、ミスを減らしながらラリーの基本を習得できます。
中級者(都道府県大会出場レベル):自分の「武器」を磨き上げる
選び方の哲学: 基本技術が一通り身につき、試合で勝ちたいという欲が出てくるステージ。自分の得意なプレー=「武器」をさらに伸ばしてくれるラバーを選びましょう。安定性を維持しつつ、より高い威力を出せる「テンションラバー」へ本格的に移行するのに最適な時期です。
- 種類: 裏ソフトラバー(テンション系)
- 厚さ: 「厚」
- 硬度: 中間〜やや硬め(ドイツ硬度42.5〜47.5度程度)
- Butterfly ロゼナ: 大人気ラバー「テナジー」の技術を応用しつつ、扱いやすさを追求したモデル。「トレランス(寛容性)」が高く、多少フォームが崩れてもボールが安定して収まるのが最大の魅力。「テナジーはまだ早いかも」と感じるプレイヤーのステップアップに最適です。
- Nittaku ファスターク G-1: 強力なグリップ力を持つシートで、回転量の多いドライブが武器になる大人気ラバー。トップ選手の使用率も高く、コストパフォーマンスにも優れるため、中級者から上級者まで幅広い層に愛されています。
- Yasaka ラクザ7: 高いグリップ力でボールをしっかり掴み、安定した弧線を描くドライブが打てます。パワーと安定性を高いレベルで両立しており、特にフォアハンドで威力を求める選手から絶大な支持を得ています。
- VICTAS V>15 Extra: トップ選手向けに開発されたモンスターラバー。相手の回転に自分の力で「上書き」するほどの強烈な回転とスピードが持ち味。カウンターや打ち合いで相手を圧倒したい攻撃的プレイヤーに。
- Tibhar エボリューション MX-P: 「テナジー05の対抗馬」として名高いドイツ製ラバー。テナジーに匹敵するスピン性能と、より直線的で速い弾道が特徴。パワーヒッターに絶大な人気を誇ります。
上級者・プロレベル:性能を極限まで引き出す
選び方の哲学: 自分の技術とフィジカルを前提に、ラバーのポテンシャルを100%引き出すための選択。もはや「扱いやすさ」は二の次で、スピードかスピン、あるいはその両方を極限まで高めた「尖った」性能が求められます。ラバーに仕事をさせるのではなく、自らの力でラバーを支配するステージです。
- 種類: 裏ソフトラバー(高性能テンション系、ハイブリッド系、粘着系)
- 厚さ: 「特厚」
- 硬度: 硬め(ドイツ硬度50度以上も視野に)
- Butterfly ディグニクス05: 「テナジー05」の正統進化版。進化した「スプリングスポンジX」により、テナジー以上の回転量と反発力を両立。特に相手の回転に負けないカウンタードライブの威力は圧巻で、現代のトッププロの多くが使用しています。
- Butterfly テナジー05: 発売から15年以上経った今なお、トップシーンで輝き続ける絶対王者。その回転性能に特化したコンセプトは唯一無二で、ループドライブのやりやすさにおいては他の追随を許しません。多くの選手にとって性能の「基準」となるラバーです。
- Butterfly ディグニクス09C: 粘着性トップシートとテンションスポンジを融合させたハイブリッドラバーの最高峰。台上技術のやりやすさと、ドライブの回転量を両立。平野美宇選手など、多くのトップ選手がフォア面に使用しています。
- DHS キョウヒョウ NEO 3 (国狂/省狂ブルースポンジ): 中国ナショナルチームが使用する粘着ラバーの最高峰。市販品とは別格の性能を持ち、ブースター(性能向上補助剤)の使用が前提となりますが、その回転量と威力は他のラバーでは到達できない領域にあります。早田ひな選手や大藤沙月選手が使用。
【戦型別処方箋】プレースタイルから導く最適解
自分の目指すプレースタイル(戦型)からラバーを選ぶアプローチも非常に有効です。ここでは代表的な戦型ごとにおすすめのラバーの組み合わせを紹介します。
ドライブ主戦型:回転でねじ伏せるか、スピードで打ち抜くか
中陣〜後陣から、強力なドライブを武器にラリーの主導権を握る現代卓球の王道スタイル。フォアハンドでいかに決定打を打てるかが鍵となります。
- 回転重視派(ループドライブ主体): 安定した弧線を描き、回転量で相手のミスを誘ったり、チャンスメイクをしたりするタイプ。
- おすすめラバー:Butterfly テナジー05, Butterfly Dignics 09C, Nittaku ファスターク G-1, DHS キョウヒョウ NEO 3
- スピード重視派(スピードドライブ主体): より直線的な弾道で、相手コートを打ち抜く速いドライブを多用するタイプ。
- **おすすめラバー:** Butterfly Dignics 05, Tibhar エボリューション MX-P, VICTAS V>22 Double Extra, Donic ブルーファイア M1
前陣速攻型:ピッチの速さで相手を詰ませる
台の近くに張り付き、相手のボールがバウンドしてすぐの打点の速さ(ピッチ)で勝負するスタイル。コンパクトなスイングで鋭いボールを打つ技術が求められます。
- 表ソフト主戦: バックハンドなどに表ソフトを貼り、ナックル性の速いブロックやスマッシュで相手を揺さぶる。伊藤美誠選手が代表例。
- **おすすめラバー:** Nittaku モリストSP, VICTAS VO>102, Butterfly インパーシャルXS
- 弾きの良い裏ソフト: 両面裏ソフトながら、球離れの速いラバーを選び、ミート打ちやカウンターで速攻を仕掛ける。
- **おすすめラバー:** Butterfly ブライス ハイスピード, Tibhar クァンタム X プロ
カット主戦型:鉄壁の守備と鋭い反撃
台から距離を取り、相手の強打を強烈な下回転(カット)で粘り強く返球し、相手のミスを誘うスタイル。守備力だけでなく、隙を見て攻撃に転じる能力も必要です。
- フォア面(攻撃・回転用): カットの切れ味と、チャンスボールを攻撃するための威力を両立したラバーが求められる。
- **おすすめラバー:** VICTAS VS>401 (微粘着), Butterfly タキネス チョップ (高弾性), Yasaka ラクザ7
- バック面(変化・安定用): 相手の回転の影響を受けにくく、変化の大きい粒高ラバーが一般的。
- **おすすめラバー:** Butterfly フェイント・ロングIII, VICTAS カール P4V, Tibhar グラスディーテックス
異質攻撃型:予測不能なボールで翻弄する
裏ソフトと表ソフトや粒高など、性質の異なるラバーを組み合わせ、その性能差を利用して戦うスタイル。相手に的を絞らせません。
- フォア裏・バック表: 最も人気のある異質攻撃スタイル。バックの表ソフトで速攻を仕掛け、フォアの裏ソフトで安定したドライブや決定打を放つ。
- **組み合わせ例:** フォア「ロゼナ」+ バック「モリストSP」
- フォア裏・バック粒高: バックの粒高で相手のドライブを止めたり、ナックルで揺さぶったりしてチャンスを作り、フォアの裏ソフトで攻撃する。
- **組み合わせ例:** フォア「ディグニクス80」+ バック「カール P4V」
【永久保存版】人気卓球ラバー カタログ50+
ここでは、2025年時点で人気・評価の高い主要なラバーをメーカー別にカタログ形式で紹介します。あなたのラバー選びの参考にしてください。(性能評価は各種レビューサイトや公表スペックを基にした参考値です)
Butterfly(バタフライ)
| ラバー名 | 種別 | スピード | スピン | 硬度(参考) | 一言解説 |
|---|---|---|---|---|---|
| ディグニクス09C | ハイブリッド | 9.2 | 9.8 | 44° | 粘着とテンションの融合。現代卓球の完成形。 |
| ディグニクス05 | テンション | 9.6 | 9.6 | 40° | テナジーを超える回転と反発力。カウンターの威力は随一。 |
| テナジー05 | テンション | 9.3 | 9.7 | 36° | 一時代を築いた絶対王者。ループドライブの質は今なお最高峰。 |
| Zyre-03 (ザイア03) | テンション | 9.4 | 9.8 | 44° | 2025年新作。新開発シートがもたらす唯一無二のスピン性能。 |
| ロゼナ | テンション | 8.8 | 8.8 | 35° | 高い寛容性(トレランス)が魅力。テナジーへの完璧な橋渡し役。 |
| グレイザー | テンション | 8.6 | 38° | ディグニクスの性能をより多くの人に。コスパに優れた意欲作。 | |
| スレイバー | 高弾性 | 7.5 | 8.0 | 38° | マークVと並ぶ高弾性のレジェンド。基本技術の習得に最適。 |
Nittaku(ニッタク)
| ラバー名 | 種別 | スピード | スピン | 硬度(参考) | 一言解説 |
|---|---|---|---|---|---|
| ファスターク G-1 | テンション | 9.2 | 9.4 | 47.5° | グリップ力とパワーの両立。トップアマに絶大な人気を誇る。 |
| ハモンド Z2 | テンション | 9.3 | 9.8 | 45° | 新技術「ZC」搭載。強烈な回転で試合を支配する。 |
| キョウヒョウ NEO 3 | 粘着 | 8.5 | 9.9 | 39-41° | 世界の頂点を獲った粘着ラバーのスタンダード。 |
| Hurricane 8-80 | ハイブリッド | 8.8 | 9.5 | 45° | 2025年新作。食い込みを良くした、扱いやすいキョウヒョウ。 |
| モリストSP | 表ソフト | 9.0 | 7.5 | – | 伊藤美誠選手使用。スピードとナックル変化のコンビネーション。 |
| ジェネクション | テンション | 9.5 | 9.4 | 47.5° | 2024年登場の次世代ラバー。シートの強さで打ち負けない。 |
VICTAS(ヴィクタス)
| ラバー名 | 種別 | スピード | スピン | 硬度(参考) | 一言解説 |
|---|---|---|---|---|---|
| V>22 Double Extra | テンション | 9.7 | 9.5 | 52.5° | VICTAS史上最強。硬質スポンジが生む爆発的な威力が魅力。 |
| V>15 Extra | テンション | 9.5 | 9.3 | 47.5° | 数々のトップ選手が愛用したモンスターラバー。打ち合いに強い。 |
| TRIPLE Double Extra | 粘着 | 9.0 | 9.8 | 57.5° | プロ仕様の強粘着ラバー。ブルースポンジが特徴。 |
| VENTUS Extra | テンション | 9.2 | 9.0 | 47.5° | スピードと掴みやすさを両立した新世代のスタンダード。 |
| VO>102 | 表ソフト | 9.2 | 7.8 | – | 木原美悠選手使用。攻撃力を最優先した超攻撃的表ソフト。 |
Yasaka(ヤサカ)
| ラバー名 | 種別 | スピード | スピン | 硬度(参考) | 一言解説 |
|---|---|---|---|---|---|
| ラクザ7 | テンション | 9.0 | 9.4 | 45-50° | 高いグリップ力で安定した弧線を描く。パワーと安定感を両立。 |
| ラクザZ | ハイブリッド | 8.8 | 9.6 | 47-52° | ラクザシリーズに粘着性をプラス。クセ球で相手を翻弄。 |
| 翔龍 (SHA LONG) | ハイブリッド | 9.1 | 9.5 | 45-50° | テンション系からの移行もスムーズな、弾みの良い粘着テンション。 |
| マークV | 高弾性 | 7.5 | 8.0 | 40-45° | 卓球界のレジェンド。初心者が最初に使うべき「教科書」。 |
ドイツブランド (Tibhar, Donic, andro, etc.)
| ラバー名 | メーカー | 種別 | 硬度(参考) | 一言解説 |
|---|---|---|---|---|
| エボリューション MX-P | Tibhar | テンション | 47.5° | テナジーの対抗馬筆頭。パワフルで直線的な弾道が魅力。 |
| ハイブリッド K3 | Tibhar | ハイブリッド | 53° | 松平健太選手も使用。超硬質スポンジが生む異次元のパワー。 |
| Bluegrip J1 | Donic | ハイブリッド | 55° | 2025年新作。張継科監修、スピン特化型の新世代粘着。 |
| ブルーファイア M1 | Donic | テンション | 47.5° | 硬めのスポンジで直線的な弾道。スピード重視のパワーヒッター向け。 |
| ラザンター R47 | andro | テンション | 47.5° | 回転のかけやすさに定評。威力と扱いやすさのバランスが良い。 |
| ラザンター C53 | andro | ハイブリッド | 53° | 微粘着シートと硬質スポンジで、台上からラリーまで隙がない。 |
XIOM(エクシオン)
| ラバー名 | 種別 | 硬度(参考) | 一言解説 |
|---|---|---|---|
| OMEGA 8 PRO | テンション | 47.5° | 2025年新作。優れたグリップ力で、コンパクトなスイングでも回転をかけやすい。 |
| ジキル&ハイド V47.5 | テンション | 47.5° | 引っ掛かりの強さと反発力の高さを両立した最新テンション。 |
| ヴェガ ヨーロッパ | テンション | 42.5° | 抜群の安定性を誇る大ヒットラバー。初心者から中級者まで幅広く対応。 |
| ヴェガ プロ ハイブリッド | ハイブリッド | 47.5° | 2024年発売。ヴェガシリーズに微粘着性とテンション性能を融合。 |
第四部:ラバー性能を科学する – 用具マニア向け深掘り講座
ここからは、ラバーの性能をより深く理解したい、探究心旺盛なプレイヤーのためのセクションです。なぜその性能が生まれるのか、物理的な特性や化学的な構造から解き明かしていきます。
粘着 vs テンション:打法と弾道の違いを徹底比較
現代卓球の裏ソフトラバーは、大きく「粘着性」と「テンション系」に二分されます。この二つは、スピンを生み出すメカニズムが根本的に異なるため、求められる打法や生まれる弾道も大きく変わります。
- スピン生成のメカニズム:
粘着ラバーは、トップシートの粘着力でボールの表面を「引っ張り上げる(擦る)」ことで強烈な回転を生み出します。一方、テンションラバーは、ボールがスポンジに深く「食い込み」、その反発力でボールを「押し出す」際にシートの摩擦力で回転をかけます。この違いから、粘着ラバーは薄く捉えるスイング、テンションラバーは厚く捉えるスイングと相性が良いとされます。 - 打球点の違い:
粘着ラバーは、その強い回転力によって、バウンドの頂点を過ぎた低い打点からでもボールを持ち上げてドライブを打つことが可能です。対照的に、テンションラバーは自らの反発力を活かすため、バウンドの頂点前後を捉える、より早い打点でのプレーが基本となります。 - 弾道の違い:
粘着ラバーが生む強回転ドライブは、ネットを越えてから急激に沈み込むような鋭い弧線を描きます。対してテンションラバーのドライブは、より山なりの安定した弧線を描きやすく、飛距離も出やすい傾向にあります。 - 技術的な要求:
粘着ラバーは、その性能を最大限に引き出すために、ラケット角度の微調整や、床を蹴って体全体を使うような大きなスイングが求められることが多く、技術的な要求は高くなります。テンションラバーは、ある程度ラバー自体の性能でボールが飛んでくれるため、より幅広いレベルのプレイヤーが扱うことができます。
スポンジ硬度の謎:メーカー基準の違いと最適な選び方
ラバー選びで混乱を招きやすいのが「スポンジ硬度」の表記です。同じ「45度」でも、メーカーが異なれば全く別の硬さになってしまいます。この謎を解き明かし、最適な硬度を選ぶための指針を示します。
主要な硬度スケールとその特徴
現在、市場には主に4つの硬度基準が混在しています。
- ドイツ基準 (ESN硬度): Tibhar, Donic, andro, XIOMなど、多くのドイツ製ラバーで採用されている基準。数値が比較的高く出る傾向があり、47.5度が中〜上級者向けの一つの基準値となっています。
- 日本基準 (J.T.T.A.A.硬度): NittakuやYasakaなどが採用。ドイツ基準より5〜7度ほど低い数値で表現されることが多いです。
- バタフライ基準: 独自の基準を採用しており、日本基準よりもさらに低い数値で表記されます。例えば、テナジー05の硬度は36度ですが、これはドイツ基準の47.5度に近い感覚とされています。
- DHS基準: 中国メーカーDHSの基準。日本基準に近い数値ですが、スポンジの密度や性質が異なるため、単純比較は難しいです。
卓球フォーラムの議論では、おおよその換算として「ドイツ硬度 ≒ 日本硬度+5」「バタフライ硬度 ≒ 日本硬度-5」といった経験則が語られていますが、これはあくまで目安です。ラバーの打球感はスポンジ硬度だけでなく、トップシートの硬さや性質も大きく影響するため、総合的な判断が必要です。
フォアとバックで硬度を変える理由
多くの選手がフォアハンドとバックハンドで異なる硬度のラバーを使用します。これは、両ハンドのスイング特性と求められる技術の違いに起因します。
- フォアハンド: 体全体を使って大きくスイングできるため、パワーを出しやすい。そのため、スイングのパワーをロスなくボールに伝えることができる「硬め」のラバーが選ばれやすい。
- バックハンド: 体の前でコンパクトにスイングすることが多く、操作性や安定性が求められる。そのため、軽い力でもボールが食い込み、コントロールしやすい「柔らかめ」のラバーが選ばれる傾向にあります。
自分のスイングの強さや、どちらのハンドで得点したいかを考えることが、フォアとバックのラバー硬度を決める上で重要になります。
トップシートの科学:粒形状と表面加工がスピンを生む
ラバーの性能、特にスピン性能を決定づけるもう一つの重要な要素が、ボールが直接触れるトップシートです。その「粒の形状」と「表面の加工」が、ラバーの個性を生み出しています。
粒形状と性能の関係
裏ソフトラバーのトップシートを裏返すと、無数の粒が並んでいるのがわかります。この粒の形状、太さ、高さ、密度が、ラバーの性能を大きく左右します。によると、テンションラバーの粒形状は主に3つのタイプに分類できます。
- 高密度・円筒形(テナジー05タイプ): 粒同士の間隔が狭く、密に配置されているタイプ。シートが硬くなり、ボールを掴む力が強くなるため、スピン性能を最大化することに特化しています。テナジー05やファスタークG-1などがこのタイプです。
- 低密度・円筒形(テナジー64タイプ): 粒同士の間隔が広く、疎に配置されているタイプ。シートが柔らかくなり、しなりやすくなるため、ボールを弾き出す力が強まり、スピード性能が向上します。テナジー64が代表例です。
- 高密度・円錐台形(テナジー80タイプ): 上記の中間的な特性を持つタイプ。粒の根元が太く、先端が細い形状をしています。スピードとスピンのバランスに優れており、テナジー80や多くのドイツ製ラバーがこの形状を採用しています。
2025年の新作、Donicの「Bluegrip J」シリーズは、「短く、太い円筒形の粒」を採用することで、硬質でダイレクトな打球感と精密なコントロールを実現しており、粒形状がラバーのコンセプトをいかに決定づけているかがわかります。
表面のグリップ力:「グリッピー」と「タッキー」
トップシート表面の性質も、スピン生成に大きく関わります。
- グリッピー(Grippy): 表面に粘着性はないものの、高い摩擦力を持つタイプ。ボールが食い込んだ際の摩擦で回転をかけます。ほとんどの日本製・ドイツ製テンションラバーがこのタイプです。
- タッキー(Tacky): 表面に粘着性(ベタベタ感)があるタイプ。ボールをシート表面に一瞬貼り付かせ、擦り上げることで回転をかけます。中国製ラバーの多くがこのタイプです。
近年は、Dignics 09Cに代表される「微粘着」のグリッピーなシートを持つハイブリッドラバーが増えており、両者の長所を融合しようとする技術開発が進んでいます。
卓球ラバーの進化史:ルール変更と技術革新の物語
現在の多様なラバーは、一朝一夕に生まれたわけではありません。そこには、卓球というスポーツのルール変更と、それに対応しようとするメーカーの絶え間ない技術革新の歴史があります。
- スポンジの発明(1952年): 日本人選手が偶然、スポンジを貼ったラケットを使用したことで、卓球のゲーム性が一変。ボールのスピードと回転が劇的に向上し、現代卓球の原型が生まれました。
- 裏ソフトラバーの登場と高弾性ラバーの時代: 表面が平らな裏ソフトラバーが登場し、より安定した回転をかけられるようになりました。ヤサカの「マークV」(1969年)やバタフライの「スレイバー」(1967年)といった高弾性ラバーが世界を席巻し、数十年にわたるロングセラーとなります。
- スピードグルー時代(1970年代後半〜2007年): ラバーをブレードに貼る際に、有機溶剤を含む接着剤(スピードグルー)を使用することで、スポンジを膨張させ反発力を高める「ドーピング」が流行。この技術革新はヨーロッパ勢の台頭を促しましたが、健康への懸念からITTFによって禁止されます。
- テンションラバーの誕生とグルー禁止(2008年): スピードグルー禁止に対応すべく、バタフライが「テナジー05」を発表。ラバー製造段階でゴムに張力を与える「テンション技術」により、グルーなしで高い性能を発揮するこのラバーは卓球界に革命を起こし、以降、テンションラバーが市場の主流となります。
- プラスチックボールへの移行とハイブリッドラバーの台頭(2014年〜): ボールの素材が従来のセルロイドからプラスチックに変更。プラスチックボールは回転がかかりにくく、スピードも落ちる特性があったため、メーカー各社はよりボールを掴む力が強く、硬いスポンジで威力を補う方向で開発を進めます。その結果、粘着性シートとテンションスポンジを組み合わせた「ハイブリッドラバー」がトレンドとなり、現在に至ります。
第五部:最高のパフォーマンスを引き出すために – メンテナンスとQ&A
どんなに高価で高性能なラバーも、適切なメンテナンスを怠ればその性能を十分に発揮できません。ここでは、ラバーの寿命を延ばし、常に最高の状態でプレーするための知識と、よくある疑問について解説します。
ラバーの寿命と最適な交換時期
卓球ラバーは消耗品です。性能は時間と共に確実に劣化していきます。その劣化プロセスと交換の目安を知ることは、安定したパフォーマンスを維持するために不可欠です。
性能劣化の4フェーズ
以下ではテンションラバーの性能劣化を4つのフェーズに分けて解説しており、非常に参考になるかと思います。
- Phase 1: 新品(1〜2回の練習): 貼りたての状態で、まだ性能が安定していません。打球感が硬く感じられたり、本来の弾みが出なかったりします。
- Phase 2: 全盛期(〜4週間): ラバーが馴染み、本来の性能を100%発揮する時期。スピード、スピン共に最大値に達し、最もプレーが成功しやすい期間です。
- Phase 3: 安定期(〜3-6ヶ月): 性能のピークは過ぎるものの、高いレベルで安定します。弾みが少し落ちる代わりにコントロール性能が向上し、この状態を好むプレイヤーもいます。表面に摩耗が見え始めますが、プレーへの影響はまだ少ないです。
- Phase 4: 劣化期(6ヶ月以上): スポンジのテンションが抜けたり、トップシートのグリップ力が著しく低下したりして、性能が急激に落ちます。ボールが滑る、意図せず失速するなどの現象が起こり、交換が必要なサインです。
交換時期の目安
ラバーの交換時期は、練習頻度や求めるパフォーマンスレベルによって大きく異なります。一般的な目安は以下の通りです。
- トップ選手: 2週間〜1ヶ月。常に最高の性能を求めるため、非常に短いサイクルで交換します。
- 一般上級者(週3回以上練習): 2〜3ヶ月。性能のわずかな低下も気になるレベル。
- 一般中級者(週1〜2回練習): 3〜6ヶ月。バタフライ社も、1日1〜2時間の練習で3〜4ヶ月を一つの目安としています。
- 初級者・レクリエーション: 6ヶ月〜1年。表面がツルツルになるなど、明らかな劣化が見られたら交換しましょう。
重要なのは、劣化したラバーの感覚に慣れすぎないことです。劣化したラバーでプレーを続けると、無意識にフォームが崩れる原因にもなります。定期的な交換を心がけましょう。
正しいクリーニングと保管方法
日々の簡単なメンテナンスが、ラバーの寿命を大きく左右します。
- クリーニング: 練習後は必ず、専用のラバークリーナーとクリーニングスポンジを使って表面のホコリや皮脂を拭き取ります。水で湿らせたスポンジでも代用できますが、アルコールの使用はトップシートを劣化させるため絶対に避けてください。
- 保管方法: クリーニング後は、ラバー表面を保護するための保護フィルムを貼ります。そして、ラケット全体を専用のラケットケースに入れ、直射日光や高温多湿を避けて保管します。特に夏場の車内放置はラバーに深刻なダメージを与えるため厳禁です。
よくある質問(Q&A)
ラバー選びに関して、多くのプレイヤーが抱く疑問にお答えします。
- Q. フォアとバックで違うラバーを貼るのはなぜ?
- A. フォアハンドとバックハンドでは、スイングの大きさ、パワーの伝え方、求められる技術が異なるためです。一般的に、体全体を使って大きく振れるフォアにはパワーの出る硬めのラバーを、体の前でコンパクトに振るバックには操作性や安定性を重視した柔らかめのラバーを選ぶことが多いです。これにより、両ハンドの特性を最大限に活かすことができます。
- Q. ラケット(ブレード)との相性はどう考えればいい?
- A. 基本的な考え方として、用具全体の性能バランスを取ることが重要です。一般的には「硬いラバーには、しなる(柔らかい)ラケット」「柔らかいラバーには、弾む(硬い)ラケット」を組み合わせることで、硬すぎたり柔らかすぎたりするのを防ぎ、バランスの取れた性能を得やすいとされています。例えば、硬くて弾むカーボンラケットに柔らかいラバーを貼ってコントロール性を補ったり、しなやかな木材合板ラケットに硬いラバーを貼って威力を補ったりします。ただし、これはあくまでセオリーであり、最終的には個人の打球感の好みが最も重要です。
- Q. 値段が高いラバーは本当に良いの?
- A. 高価格帯のラバーは、最新の技術を投入し、スピードやスピンといった特定の性能を極限まで高めていることが多いです。しかし、その性能を100%引き出すには、相応の技術レベル(特に速いスイングスピード)が必要になります。初心者が使うと、弾みすぎてコントロールできず、かえってミスが増える「宝の持ち腐れ」状態になりがちです。自分のレベルに合った価格帯のラバーを選ぶことが、結果的に上達への近道となります。
- Q. トップ選手の使用用具は参考になる?
- A. 憧れの選手と同じ用具を使うことは、モチベーション向上に繋がる素晴らしいことです。しかし、そのまま真似するのは注意が必要です。特にプロが使用する硬いラバーや特殊な粘着ラバーは、一般のプレイヤーには扱いきれないことがほとんどです。彼らの用具は、あくまで「目指すプレースタイルの方向性」の参考として捉え、まずはその選手が使っているラバーのコンセプトに近い、より扱いやすいモデルから試してみるのが良いでしょう。
まとめ:最適な一枚で、あなたの卓球はもっと楽しく、強くなる
長く複雑なラバー選びの旅、お疲れ様でした。この記事を通じて、卓球ラバーの奥深い世界の一端に触れ、自分に合った一枚を見つけるための羅針盤を手にしていただけたなら幸いです。
ラバー選びの核心は、結局のところ「自己分析」に尽きます。この記事で紹介した要点を、最後にもう一度確認しましょう。
- 自分のレベルと戦型を理解する: まずは自分の現在地を客観的に見つめ直しましょう。コントロールを重視すべきか、威力を追求すべきか。
- ラバーの種類と性能を知る: 裏ソフト、表ソフト、テンション、粘着…。それぞれの特性を把握し、自分のプレースタイルとの相性を考えましょう。
- 厚さと硬度を意識する: 自分のパワーや求める打球感に合わせて、スポンジの物理的特性を選びましょう。
- 迷ったら定番を選ぶ: 情報の多さに圧倒されたら、まずは多くのプレイヤーに支持されている定番ラバーから試すのが確実です。初心者なら『マークV』、中級者なら『ロゼナ』などが、その代表格です。
最適なラバーは、あなたの潜在能力を解き放ち、これまでできなかったプレーを可能にし、卓球というスポーツの新たな魅力を教えてくれる、最高のパートナーです。このガイドで得た知識を元に、ぜひ自分の用具を見直し、試打サービスなどを活用して、様々なラバーを体感してみてください。
あなただけの「最強の一枚」を見つける旅は、まだ始まったばかりです。その旅が、あなたの卓球ライフをさらに豊かで、エキサイティングなものにしてくれることを心から願っています。





















