XIOMが投じる「二面性」の最終兵器
スタイリッシュなデザインと高いコストパフォーマンスで市場に衝撃を与えた「ヴェガ」シリーズ、そしてトッププロの要求に応える「オメガ」シリーズ。韓国の卓球メーカーXIOM(エクシオン)は、常に革新的な製品で卓球界の常識に挑戦し続けてきました。そのXIOMが2022年から展開する第三の基軸が、相反する性能の融合をテーマにした「ジキル&ハイド」シリーズです。
「スピードとコントロール」「スピンと反発力」といった、本来はトレードオフの関係にある要素を一つのラバーに内包させるという野心的なコンセプト。その集大成とも言える最新作が、今回レビューする『ジキル&ハイド C57.5』です。シリーズ最高硬度を誇るこのラバーは、一体どのような性能を秘めているのでしょうか。本記事では、製品の基本情報から詳細な性能分析、他製品との比較、そして推奨されるプレイヤー像まで、多角的にその実力に迫ります。
ジキル&ハイド C57.5とは何か? – 製品概要とコンセプト
基本スペックと「C57.5」の意味
『ジキル&ハイド C57.5』の核心を理解するためには、まずその名前とスペックを読み解く必要があります。
- ラバー種別: 裏ソフトラバー(微粘着テンション)
- スポンジ硬度: 57.5度
- スポンジ厚さ: 2.1mm, MAX
- 原産国: ドイツ
- メーカー希望小売価格: 11,000円(税込)
特筆すべきは、名前に含まれる「C」と「57.5」という二つの要素です。シリーズの他ラインナップ(V, X, H, Z)とは一線を画す「C」は、粘着性を特徴とする中国式(Chinese)ラバーの特性を取り入れていることを示唆しています。そして「57.5」は、XIOMのラバーラインナップの中でも、そして市場全体を見渡してもトップクラスに硬いスポンジ硬度を表しています。この「中国式粘着シート」と「ドイツ製超硬質テンションスポンジ」の組み合わせこそが、C57.5の個性を決定づける根幹となっています。
コンセプト:「極めて凶暴な打球」を生む粘着ギア
「極めて凶暴な打球を産む最強微粘着ギア。ボールに食らいつく唯一無二の打球感、相手に恐怖を陥れる超絶ハイスピンに加え、スーパーハードなスポンジが爆発的な威力を生み出す」
このキャッチコピーは、C57.5が目指す方向性を明確に示しています。従来の粘着ラバーは、強烈な回転を生み出す一方で、スピード性能に課題を抱えることが一般的でした。しかしC57.5は、XIOMが培ってきたテンション技術を応用した硬質スポンジを搭載することで、粘着ラバー特有の「ボールを掴む感覚」と、テンションラバーのような「爆発的な弾み」の両立を追求しています。まさに、ジキル&ハイドシリーズのコンセプトである「二面性」を最も先鋭的な形で体現したラバーと言えるでしょう。
性能徹底分析:データとレビューから見るC57.5の実力
C57.5の真価は、実際の打球性能にあります。ここでは、メーカー公表値やユーザーレビューを基に、その性能を「スピードとスピン」「硬度とインパクト」「弾道とコントロール」の3つの側面から深掘りします。
スピードとスピンの二律背反を超えて
C57.5の最大の特徴は、粘着ラバーでありながら驚異的なスピード性能を持つ点です。ある上級者ユーザーは、「Dignics 09Cと中国粘着ラバーを足したような感じ」「粘着なのに球が速い」と評価しており、従来の粘着ラバーのイメージを覆す性能であることが伺えます。
下のグラフは、ジキル&ハイドシリーズの主要ラバーの性能を比較したものです。C57.5は、スピン性能でH52.5に次ぐ高さを維持しつつ、スピード性能ではZ52.5に迫る数値を記録しています。これは、微粘着シートがボールを確実に捉えて強烈な回転を生み出し、同時に硬質なスポンジがそのエネルギーをロスなくスピードに変換していることを示しています。まさに「スピードとスピンの二律背反」に挑んだ結果と言えるでしょう。
57.5度の超硬質スポンジがもたらすインパクト
57.5度というスポンジ硬度は、現代の卓球ラバーの中でもトップクラスの硬さを誇ります。この硬さは、プレイヤーに相応のスイングスピードとインパクトの強さを要求しますが、その見返りは絶大です。ボールがラバーに深く食い込みすぎないため、相手の回転の影響を受けにくく、特にカウンターやミート打ちにおいて安定した強打を可能にします。
あるレビューでは、「パワーヒッター向け」「ネットと同じ高さから強打した際の入る確率が高い」と評されており、強打時の安定性と威力の高さを物語っています。また、「打球音が金属音で心地よい」という感想もあり、硬質な素材ならではの打球感も特徴の一つです。ただし、この硬さは諸刃の剣でもあります。インパクトが弱いとラバーの性能を十分に引き出せず、ただ硬いだけの板のように感じてしまう可能性があります。また、気温が低い環境ではさらに硬く感じ、扱いにくさが増すという指摘もあり、コンディション管理も重要になります。
粘着性が生む特有の弾道とコントロール性能
C57.5は、ただ硬くて速いだけのラバーではありません。トップシートの微粘着性が、独特の性能を生み出しています。レビューによれば、「粘着特有の強い弧線とクセ球」が出るとされ、直線的な弾道になりがちな硬質テンションラバーとは一線を画します。この強い弧線は、ドライブの安定性を高め、相手コートに深く突き刺さるような質の高いボールを可能にします。
さらに、粘着性は台上技術においても威力を発揮します。「サーブが軽く擦るだけで切れる」という評価の通り、短いスイングでも強烈な回転をかけることができ、サービスの質を向上させます。ストップやツッツキにおいてもボールが飛びすぎず、低く短くコントロールしやすいというメリットがあります。この近距離でのコントロール性能と、ラリー戦での爆発的な威力の両立こそが、C57.5が持つ「二面性」の真骨頂です。
他ラバーとの比較:C57.5はどのような立ち位置か?
C57.5の独自性をより深く理解するために、市場で競合となるハイエンドラバーと比較してみましょう。
vs バタフライ ディグニクス09C
粘着性ハイテンションラバーの代表格である『ディグニクス09C』は、C57.5の最も直接的なライバルと言えます。両者は「粘着シート+テンションスポンジ」という共通のコンセプトを持ちますが、その性格は異なります。
- 回転性能: どちらも最高レベルのスピン性能を誇りますが、09Cはシートの粘着性がより強く、ボールを「持つ」感覚が強いです。一方、C57.5は微粘着で、より弾き出す感覚が加わります。
- スピード性能: C57.5は57.5度の超硬質スポンジにより、09C(スポンジ硬度44度)よりもインパクト時の最大スピードで上回る可能性があります。特にフラット系の打法では、C57.5のスピードが際立つでしょう。
- 打球感: 09Cはボールを掴んでから飛ばす独特のフィーリングですが、C57.5はよりダイレクトで硬質な打球感です。これは好みが分かれるポイントです。
総じて、回転と安定性を重視し、自ら回転を作り出すプレースタイルなら09C、スピードと威力を重視し、相手のボールを利用したカウンターを武器にするならC57.5、という選択肢が考えられます。
vs XIOM ジキル&ハイド Z52.5
同じジキル&ハイドシリーズのトップモデルである『Z52.5』との比較も重要です。Z52.5は、トップ選手仕様の性能を一般プレイヤーにも提供することをコンセプトとしたテンションラバーです。
- シート特性: 最大の違いはシートです。Z52.5は粘着性のないテンションシートであり、C57.5は微粘着シートです。これにより、台上技術やサーブの回転のかけやすさではC57.5に分があります。
- 弾道: Z52.5はより直線的でスピード感のある弾道を描くのに対し、C57.5は粘着性により強い弧線を描きます。安定性を求めるならC57.5、一撃のスピードを求めるならZ52.5が適しています。
- 打球感: どちらも硬めのラバーですが、レビューによればZ52.5は「もちもちしたテナジー05のよう」と評される一方、C57.5はよりソリッドで硬質な打球感です。
同じシリーズ内でも、C57.5は「粘着」という明確な個性を持ち、Z52.5はテンションラバーの王道を進化させたモデルと位置づけることができます。
どのようなプレイヤーにおすすめか?
これまでの分析を踏まえると、『ジキル&ハイド C57.5』は以下のようなプレイヤーにその真価を発揮するでしょう。
- スイングスピードに自信のあるパワーヒッター
57.5度の硬質なスポンジを鳴らしきるには、相応のパワーとインパクトが不可欠です。自分のスイングでラバーを食い込ませ、爆発的な威力を引き出せる上級者にとって、C57.5は最強の武器となり得ます。 - 粘着ラバーの回転量とテンションラバーのスピードを両立したい選手
中国ラバーの回転性能は魅力的だがスピードが物足りない、あるいはテンションラバーのスピードは良いがもっと回転で優位に立ちたい、というジレンマを抱える選手に最適です。C57.5は、その両方の要求に高いレベルで応えるポテンシャルを秘めています。 - 前陣でのカウンターやミート打ちを多用する選手
相手の回転に影響されにくい硬さと、コンパクトなスイングでもスピードを出せる反発力は、前陣での高速ラリーにおいて絶大なアドバンテージとなります。相手の強打を倍返しにするようなカウンタープレーを得意とする選手には、まさに理想的なラバーです。
一方で、スイングが未完成な中級者や、ラバーにボールの食い込みや安定感を求めるタイプのプレイヤーには、オーバースペックとなる可能性が高いことも付け加えておきます。
結論:パワーとスピンの新たな融合点を求める挑戦者たちへ
XIOM『ジキル&ハイド C57.5』は、単なる新製品ではありません。それは、「粘着」と「テンション」という二大潮流を、かつてないほど高い次元で融合させようとする野心的な試みです。57.5度という極限の硬度は、使い手を選びますが、そのポテンシャルを解放できたとき、それは「極めて凶暴な」と形容されるにふさわしい、圧倒的な威力とスピンを両立したボールを生み出します。
このラバーは、安易な安定や万人受けを狙ったものではありません。自らのパワーと技術で用具の限界を引き出し、卓球の新たな境地を切り拓こうとする挑戦者たちのためのギアです。もしあなたが自身のスイングに絶対の自信を持ち、パワーとスピンの究極の融合点を求めるのであれば、『ジキル&ハイド C57.5』は、その期待に応える唯一無二のパートナーとなるでしょう。




